本編沿い


□Story25
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わたしがいなくなっても

どうか、どうか、どうか。



Story25、君の色に染まった絶望



オーブ艦隊にまぎれてオーブを出てから、どのくらいが経過したのだろう。
マードックに怪訝な顔をされながらもストライクで待機していたキラは、領海を出たらすぐに始まるであろう戦闘を思って顔を曇らせた。

今回の戦闘には、トールも出るという。由希は当初「私の記録を抜いてないのによく乗るなんて言ったわね」と断固拒否状態だったが、作戦内容とトールの決意の瞳を暫く見つめると、今回限りであること、支援だけに徹底することを条件に了承したのだ。不安は募るが、由希もこの戦闘を思うと複雑なのだろうとキラは思った。

予想通りの敵が出現したことで、ストライクもリオンも一斉に甲板に上がり、煙幕の向こう側にいる敵のグゥルを狙って銃を構える。
トールからの座標の転送位置に向かって攻撃を繰り返しながら、由希が唐突に言った。

〈流石に撃墜は出来ないか…ちょっと一機借りてくるね、グゥル〉

言うが早いか一気に上昇し、バスターを蹴り落とした由希はグゥルに乗ってデュエルの元へと向かっていく。
煙幕の向こうで様子は見えないが、どうやらこっちは任せて欲しいということなのだろう。キラは意識を残ったイージスとブリッツに向け、苦々しげに見つめた。
二機は巧みに連携を取って、ストライクを阻もうとする。キラはブリッツに挑みかかってはライフルで牽制してくるイージスに向かって舌打ちしたくなった。
分が悪いその状況に、トールがブリッツの右腕に向けてミサイルを発射しながらキラに呼び掛ける。
一瞬ヒヤリとしたキラは、気が削がれたブリッツがこちらを見ないうちにその右腕を切り落とした。

〈やったぜ!〉

トールの歓声に苦笑を浮かべながら、キラは体勢を崩したブリッツが再度戦域に加わらないように蹴って海面すれすれに落とす。
武装の集中した右腕を失っては、戦線に戻っても何も働きは出来ないだろうと、残りの一機であるイージスに向かって機体を宙にあげた。

撃っては撃たれる状況に、双方の疲弊は激しかった。
アスランは移動手段を失い、ストライクもパワー残量が危うい状態のまま、小島に着地する。撤退を望むキラに、しかし彼は攻撃をやめようとしない。
戦いたくないのに放っておいてくれない彼に思わずキラは激昂する。深追いをするなと云うナタルの声も聞こえず、キラはイージスに怒りを向けた。

「アスランっ…!もう下がれ!きみたちの負けだっ!」
〈なにをっ…!?〉

キラのその台詞に、アスランの頭にも一気に血が上った。
兄のように接してきたキラに、手も足も出ないという状況が更にアスランの通常の思考を蝕んでゆく。

「やめろ、アスランっ!これ以上戦いたくないっ…!」
〈なにを今更っ!撃てばいいだろう!?お前もそう言った筈だ!〉
「アスラン──!」


かつての友として過ごしてきた日々は、最早2人の頭に痛みしか与えない。

どこにも行けない現状に、双方が双方への怒りにすり替えられた痛みが重なって、哀しい刃が双方から放たれる。


──しかしそれが食い込んだのは、双方ともに予期していなかった機体に対してだった。


イージスの刃には、ストライクを庇うように空から降りたリオンが
ストライクの刃には、イージスを庇うように地を駆けたブリッツが


背中合わせのままリオンとブリッツは、互いの機体が爆発する前に、目の前の立場上の“敵”をそっと遠くへ押し遣った。


〈キラ…泣かないで──〉
〈──アスラン、すみません〉






一瞬後の爆発まで、一体何が起こったのかと云う事を誰も理解していなかった。
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