本編沿い
□Story24
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決意と業火の波に飲まれても
戻らない、貴方を幸せにするためならば
Story24、終焉の幕開け
午前中から一人で工場区へと足を踏み入れていたキラは、賞賛の声をかけられるたびに重くなっていく心に辟易としていた。
自分のやっていることが何なのか、考えていたらきっと作業が出来ないからと無心になって目を画面に追っていく。
昨日は背中に感じていた温もりが何とか自分を持たせてくれていたが、由希は今街に出ているのでそれも叶わない。キラは溜息を吐きながら、彼女のことを考えた。
「(由希…どうしてるかな)」
朝出発する前に、由希はエリカ・シモンズから頼まれていたプログラムをキラに預けにやって来た。
彼女はキラに手渡しながら、苦く笑って言ったのだ。
『…こんなもの出来ても、どうしようもないのにね』
きっと昨日のキラが褒められる度に表情を硬くしていたことに気付いていたのだろう、彼女は今日キラを一人で行かせてしまうことへの謝罪も忘れなかった。
それから少し背伸びをして、キラの頬にキスを送った。彼女にしては珍しい行為で、キラは頬を赤く染め、そんなキラに由希は微笑んだ。
『…おまもり』
思い出す彼女に、少しあたたかくなる。
由希は何時だってキラの気持ちを考えていてくれるから、キラは安心することが出来るのだ。
「ねえ、キラくん、あなた歳いくつ?」
昨日の動きとは似ても似つかない俊敏なアストレイのデモンストレーションが終わった後で、パイロットのジュリとマユラはこそこそとキラの傍に寄ってきて、唐突に喋り出した。
「あん、ジュリ、あんたはカレシがいるでしょ!譲りなさいよ」
「なによォ、ちょっとお話ししたかっただけじゃないのォ」
「ね、ね、カノジョいる?」
矢継ぎ早にされる質問と、そのテンションの高さにキラはたじたじになる。
昨日由希が「つ…、ついていけない」と言っていた意味が本当によくわかった。そんな由希ばかりを気にしていたから、昨日は気がそがれてあまり注意していなかったのだ。
すると困り顔のキラの後ろで、カガリがぼそりと助け船を出した。
「──いるぞ、彼女。昨日来てただろ?」
「ええッ〜!?あんな可愛いコを!?がっかり〜!」
どっちに落胆したのか分からない台詞で、マユラが声を上げる。
ジュリは納得したかのように頷いた。
「あ〜、だからかァ、デモンストレーションの時、手繋いでたよね〜」
後半はにやにやと表情を浮かべながら言って、キラの頬を真っ赤に染める。
「おまえ…そんなの見てる暇があるくらいなら昨日のデモンストレーションもっと速くなんなかったのかよ」
「今日はあのコ、来ないの?仲良くなりたいな〜」
カガリの突っ込みを綺麗に無視して、ジュリは楽しそうに聞いてくる。
「午後からなら、来るかもしれませんけど…」
「ほんとッ?嬉しいなァ、エリカさんに警戒してる表情も、キラくんの隣で優しく笑ってる顔もすっごい好みなの〜」
「ジュリ…あんた…」
マユラが心底ひいたようにジュリと距離を取った。
ジュリがそれに笑いながら、同じくちょっと引き気味のキラに耳打ちする。
「…大丈夫だよ、キミの彼女、取ったりしないから」
キラはそれに「はあ…」と曖昧に答えつつ、どうしたものかとカガリの方へ視線を送る。
カガリは首を横に振りながら、こいつらはいつもこんな感じだ、どうにもならん、といった感じの空気を出していた。
「…(カガリも大変なんだな)」
「あーあー、何でイイ男は売約済みなんだろー!マユラも早く素敵な彼がほしーなぁ!カガリさまぁ、一緒に泣こう!」
「なんで私がお前と泣かなきゃなんないんだよっ」
叫ぶカガリを何処か遠くに感じながら、キラは少し思った。
自分は果たして、彼女にとって“素敵な彼”になれているのだろうか。
考えれば考えるほど彼女の優しさに甘えてばかりな気がして、嫌な現実を癒してくれるぬくもりとして利用しているだけな気がしてぞっとする。
それくらいキラは、自身の由希への依存に気付き始めていた。それが、心の傷から来るものだとは、悟れずに。