本編沿い


□Story23
1ページ/6ページ



穏やかな時は戻らずとも

君との今日は、決してわすれないよ


Story23、二人だけのコンサート



「モルゲンレーテからの技術協力の申請ね…部品ぱくれるから別にいいけど?」

由希はオーブの決定を告げに来たムウに、不穏な空気を少し醸し出しながら睨みを利かせ、小声で告げる。

「…キラにもやらせるの?」
「仕方ないだろう、あちらさんからの申請だ」
「………」

押し黙った由希に、ムウは軽口を叩く。

「ま、由希が無茶しないようお目付け役ってことで」
「…技術支援でどうやって無茶するんですか…」

由希は溜息をつきながらも、気分を軽くしてくれた目の前の男に敬語を戻しながら礼を言う。
熱が素直にひいてくれたのも、この男が寝ずの看病をしてくれたからだった。
朝になり医務室には連れて行かれたが、ムウは自分が部屋で看病していたことを言わないでくれた。

「プログラムはどうしても適わないからなあ」

苦笑しながら呟いた台詞をムウが聞いていたとも知らず、由希はリオンに乗り込み、ストライクに乗るキラと一緒に、迎えに来たモルゲンレーテのバギーについて行ったのだった。

足を踏み入れた工場区で目を見開いて辺りを見回すキラに、エリカ・シモンズが微笑みながら挨拶をするのを、由希は黙って聞いていた。

「まさかオーブで戦場の堕天使さんに会えるとは思わなかったわ」

すると、急に此方に目を向けられ、由希は久しく聞いていなかった二つ名に少々戸惑う。

「…余計な詮索は、しない方がよろしいのでは?」
「そうね、ただ、あまりにも可愛らしい子だったから嬉しくて」

固い声で言ったのに、にこにこと言葉を続けるエリカに更に驚きつつも、「それは…ドウモ」と返す。
漸く歩きだしたエリカは、M1アストレイの元へと連れて行く。ストライクへの好意的な態度からも、由希は彼女が完全なるアスハ派ではないことを悟って気を引きしめた。
途中加わったカガリの言葉に色々苦笑を浮かべつつも先を進んでいくと、アストレイの操縦者たちの声が耳を裂くように響く。

「げ、げんきだね…」

由希が結構なダメージを受けた様に言った。
凡そ彼女にはついていけないテンションだったのだろう。苦笑しながらキラが手を差し出すと、一瞬キョトンとした後で微笑んで手を重ねてくれた。
デモンストレーションののろくさい動作をもう少し見ていてもよかったと思うくらい、その温もりはあたたかくてキラは安心したのだ。


「私ね、キラの九割弱だと思うのよ」

背中合わせでアストレイのサポートシステムをつくりながら、由希は難しそうに呟いた。
訳が分からなくて思わず由希を見ながら「え?」と言うと、画面に目を向けたまま由希が言葉を続ける。

「プログラミング…私リオンのでちょっと自信なくしたの。昔からやってたのはどうしても肉体的なことだから、極められないかも」

何を言えばいいのか分からず黙っていると、ふう、と一息をつきながらも、背中で「よしっ」と声が聞こえた。

「半分終了〜じゃあちょっと、私賄賂届けに行ってくるね」
「え…賄賂!?」

由希は作っていたOSとは別に、何かのフロッピーを取り出して悪戯に笑う。

「明日の午前中だけ、ちょっと時間を貰うの。行きたい場所があるから」

その視線には曲がらない意志がこもっていて、キラは悠然と笑う彼女を美しいと改めて思ったのだった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ