本編沿い


□Story22
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「何か食べないとだめだ、それで、寝ちまえ」

簡易的なおかゆを持ったムウが、彼のベッドに無理やり運んだ由希に向かって言葉をかける。
由希は複雑そうな表情をしたものの、黙って従うことにしたのか、その器を受け取った。

「………おいしい」
「そうか、そりゃーよかったな」

呟く由希の頭を、大きな手でポンポンと撫でたムウは、次いでカップに入れたスープを差し出し、おかゆを受け取る。
ゆっくりとスープを飲みながら、先程よりは良くなった顔色をする由希に、ムウは安堵の笑みを浮かべた。

「もっと食べれるか?」
「……すこし、だけなら」

無人島で元同僚に言われた言葉が気になったのか、それとも現状を早く改善したいからか、由希はいつもより頑張って、食べ物を口に運んだ。



その後寝かせた由希の顔を見ていると、熱があるのか苦しそうな表情を見せた。
医務室に駆けこんでやろうかとも思ったが、先程の由希の拒絶と、こうなった原因を思うと、どうしてだか自分が何とかしてやりたいと思ってしまう。
冷たい水にタオルを浸して絞ってから、由希の額に乗せてやる。その際頬に触れたが、結構な熱を持っていた。

「ら…う…」

うわ言のように呟かれたそれに、ムウは目を見張った。
由希は頬に当てられたムウの手に顔を寄せ、小さな手を添える。

「らう…ごめんなさい、ごめん、なさい」

少女は涙を浮かべながら、何度も何度も謝っていた。
やくそくはまもるから、らう、ごめんなさい、らう──…と。

何度目かに額のタオルを変えた時、由希が目を開けた。
熱のせいで潤むそれに、大丈夫かと声をかけると、由希は小さく身じろぎした。

「由希?」

その顔の前に手をやると、由希はおずおずと熱い手でそれを掴んだ。

「……つめ、たくて…きもち、いい…」

一生懸命に由希が言葉を紡ぐから、何故か泣きそうになり、ムウは由希の両眼ごと額に大きな手を被せた。
暫くは感嘆ともつかない声をあげていた由希だが、急に静かになりムウは首を傾げる。
眠ったのかと手をどけようとして、慌てた由希が両手でそれを抑えた。はずみで触れた双眼からは、涙が溢れ出していた。

「由希……」
「…解ってた、はずなんです」

自分の手で半分は見えない表情を探りながらも、ムウは先を促した。
熱のせいだろうがなんだろうが、きっと呟かれる言葉は、ずっと奥底に仕舞いこまれていた彼女の本心だろうから。

「自分の体が──私が、誰も幸せに出来ないって…解ってた、筈なのに…ッ」
「………」

次第に涙声になっていくそれに、ムウは顔をゆがめる。

「だから…、余計な感情を貰わないようにして…イザークを、突っぱねて…」

小さく震えだす少女がどうしたら幸せになれるのか、あてどない答えを探りたかった。

「…キラ、キラなら…哀しませてもいいって、何処かで思ってたのかな…ッ」


日常で発作が起き、先も長くない身体
内臓が半分ない肉体は、愛し合う行為さえもを拒絶して

刻む前は、確かに幸せだったのに
真に、彼を愛せたと思って、しあわせだったのに







痛いほど解っていた現実が、こんなに苦しいものだと思ったことはなかったよ
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