本編沿い
□Story22
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嘘を吐いたことはなかったけど、
自信をなくしたのも──本当なんです
Story22、後悔の思想は想いの分だけ囚われて
薄暗い部屋の中、由希は隣で眠るキラの腕を抜けて、そっと身を起こした。
思わず呻いてしまいそうになるのを必死で堪えながら、シャワールームまで壁伝いになんとか進んでいく。
腹部が蠢いていて死ぬほど気持ちが悪かった。胃の中身を出してはいたが、生憎と残っていた食べ物はなかったようで喉だけがひりひりと痛む。
べたつく身体を、低姿勢のまま器用に洗っていく。身体を綺麗にしても、気分がさっぱりすることはなかった。
まだ少し濡れた髪のままで、由希は出来る限り素早く衣服を身につけると、これだけ自分が活動しても起きないキラに目を向ける。
きっと、昨晩殆ど眠れなかったんであろうキラは、穏やかな顔で規則正しい寝息を立てていた。
「……ありがとう、キラ…ごめんね…」
かすれる声で呟いて、由希は涙が出て来そうな自分に戸惑った。
最近の自分の涙腺は随分と緩くなった気がする。滴が零れる前にキラの部屋を出て、由希は自室に戻ろうと壁に身体を支えてもらいながら進んでいく。
今の自分の姿は、誰にも見せたくなかった。
───なのに。
「…由希?」
どうしてこの男は、タイミング悪く此処にいるのだろう。
「………なんですか、ムウさん」
「いや、そっちがなんですか、だろ?え、大丈夫か?今にも死にそうな顔してるぜ」
口は軽くても、心配は本物なのだろう。ムウは駆け寄ると、支えを代わろうと由希の腕を引く。
「どうする?医務室、行くか?」
伺い見てくるムウに、ほっといてくれと言えなくて、由希はゆるゆると頭を振った。
「寝てるでしょうし…こんな姿、みられたくないんです」
消え入りそうな声で続けた由希が俯くと、先程までの行為でキラが由希に刻んだ首筋の紅い華がムウの目に映った。
「──そういう、ことか」
「……え?」
合点がいったと硬い表情で呟くムウに、由希は不安げな視線を向けた。
由希の部屋は大分向こうなので、可笑しいとは思っていたが。
「…部屋に、戻りたいのか?」
こくん、と頷く由希に、しかしムウはその身体を優しく抱きあげると、自室へと向かって歩いていく。
「え…ムウさん…!」
「もう俺には見られてるんだ、今さらだろ。…こんなお前を一人にしておけるか」
小さく暴れる由希に、観念しろ、と呟いて、ムウは身体に障らないよう慎重に速度を上げた。
その際先程我慢した滴が由希の目から零れ落ち、ムウの肩口を冷たく濡らしたが、ムウは何も言わなかった。