本編沿い
□Story21
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夜明けの鐘を鳴らせ
さあ、現実にかえる時間だよ
Story21、果実の変化
「離せっ!!行かせろ!キサカ!!」
アークエンジェルの医務室に、甲高い叫び声が響く。
回収されたスカイグラスパー二号機で意識を失っていたカガリは、つい先ほど目を覚ましたにも関わらず喚いては自分をもう一度スカイグラスパーに乗せろと言い出す。
「由希が…!!あいつ、戻ってないんだろ!?私のせいで…ッ!探しに行かないと…!!」
「カガリ、少しは落ち着け」
幸いにして今この小さな空間には、キサカとカガリの二人しかいなかった。
キサカは取り乱すカガリに、自身の由希への心配は気取られぬように言葉を紡ぐ。
「それでは由希の行動は本末転倒だ。またカガリが失踪するようなことになったらどうする」
「…平気だよ!!怪我だってかすり傷だ!」
「かすり傷で戻って来られたのは、由希のおかげだろう」
もしかしたら今頃海の藻屑になっていたかもしれないぞと真顔で言うキサカは、唯でさえ由希が居ないことで空気が微妙なアークエンジェルでこれ以上目の前の少女が事を大きくしないように努めていた。
涙目で自分を見つめるカガリに、精一杯優しい声を出す。
「説教は、由希が帰ってきたら盛大にする、今はとりあえず休め」
暫く頭を撫でていると、少なからず漂流して疲れていたのであろう、規則正しい寝息が聞こえて来た。
キサカはゆっくりと立ち上がると、医務室を後にした。
「だから、僕は大丈夫ですってば!言われた通り、ちゃんと休んだし──」
「何が大丈夫だ!休んだって、アラートで一時間転がってただけじゃないか!艦長に言われた時間も無視して、戻ってこなかったくせに!」
「でも…っ」
足を進めていくと、格納庫で言い争う二人のパイロットに遭遇する。
内容からも分かるが、確実に二人は焦っている。それを全面に出しているか、冷静さを失わずにいられているかの違いだ。
「──すまなかった、カガリが、迷惑をかけた」
謝って済むものでもないが、深々と頭を下げる。キサカも大分由希のことが心配だった。
その心配が通じたのか、ばつの悪そうな二人が残る。
「…いや、彼女に出撃を許可したのは俺だ。被弾したところも見てる…単独で帰投させたのも、俺なんだ」
歯を食いしばるようにして、ムウが続ける。その顔に浮かぶやりきれない苛立ちに、キラは戸惑った。
いつも飄々としている大人が、こうまで肩を落とすところを見たことが無かったからかもしれないとキサカは思う。
「…でも由希なら、カガリを連れて戻ることも出来たと思うんです…それをしなかったってことは、途中で何かあったんじゃないかって…不安で」
やっと心情を吐露したキラの肩に、ムウが手を置き、ポンポンと慰めるように叩く。
「由希はおまえに心配するなって言ったんだろ?じゃあ、それを信じてやれよ」
「少佐…」
ムウはキサカとキラのみに絞られたメッセージに、きっと少女はMIA処理されてしまうことも考慮していたのだろうと思い、切なくなる。
いつだって由希は現実的で、冷静で、しかし本当に無茶をするから、傍にいようと思っていたのに。
考え込むムウを前に、キラは余計に顔を曇らせる。空いていたもう一つの肩をキサカがポンと叩き、それによって意識をこちらに浮上させたムウが努めて明るく言う。
「あと五時間もすれば日も昇る。大丈夫だ、由希はなんせ、無人島の達人だからな」
“洞窟事件”を匂わせながら笑うも、三人は一刻も早く明るくなってくれと、どうか無事でいてくれと、心の底から願わずにはいられなかった。