本編沿い


□Story20
1ページ/6ページ



離れても追える確かな影が、あなたへとどうか続いていますように



Story20、信じることの意味



「アスラン」

作戦のため地球へと降下しつつあるヴェサリウスで、アスランは後ろからかけられた高い声に振り向く。
ヘリオポリスの作戦前は二つ存在した他の人より高い声も、今ではただ一人に特定される事実が複雑ではあったが、なんとか笑顔をつくり、少年が追いつくのを待つ。

「ニコル」
「この間はありがとうございました」

そう言われて一瞬アスランは何の事だかわからなくなったが、すぐに記憶の淵から真新しい情報を探し当てる。

「いや……いいコンサートだったね」

プラントに一時帰国をしていた彼らは、それぞれが少しの休暇を取ることができた。
その間ニコルは家に帰ったりコンサートを開いたりして、アスランはラクスの家を訪ねる等して各々の時間を過ごしたのだ。

ラクスとの少ない時間の中で、彼女は穏やかそうに笑いながら、親友の──由希のことを案じていた。キラのことについても話をしながら、それでもどうして由希が地球連合にいるのかの理由を知っているであろう彼女は、アスランにはその訳を話そうとはしなかった。

その時のラクスの表情や、会話の内容について頭を働かせていたアスランは、次いで聞こえたニコルの声に一瞬反応が遅れる。

「……寝てませんでした?」
「…そ、そんなことはないよ」

本当は安眠していたのだが、慌ててごまかす。前回と違ってピアノソロのコンサートは、心地好過ぎたのだ。

「そうですか?あそこの椅子は随分座り心地がいいですから」
「あ…うん、そうだった」
「さぞ気持ちよく眠れただろうと…」
「ね、寝てないよ!ちゃんと聞いていたさ」

むきになるアスランに、ニコルはくすくすと笑う。

「本当は約束通り由希と一緒にやりたかったんですけどね。彼女の歌声があれば、聞き逃すのが勿体なくて眠れないでしょう?」

前回のコンサートがまさしくそれで、大反響を呼んだ。アスランも先程はそのコンサートを思い出していたのだが、ニコルの口から出た名前にしばし戸惑う。

由希は今キラと同じあのあしつきにいる。ザフトに居場所がないと言って離れた彼女を、ニコルはどう思っているのだろうか。クルーゼ隊の誰よりも、公私ともに由希と仲が良かったニコルは、由希に裏切られたと思ってはいないのだろうか。悶々と考えるアスランに、ニコルが優しい笑顔で続ける。

「まあ、この戦争が終わればいくらでもできますよね!次はもっと盛大なコンサートにしますから、寝ないで聞いてくださいよ」

その曇りのない笑顔に、アスランは質問したかった言葉を飲み込んだ。由希が向こうに行ってから、荒れたイザークにそれをなんとか抑えるディアッカが目立ち過ぎて、ニコルについてあまり考えていなかった自分に気がつく。
あしつきと一緒に地上に落ちた彼らは、バルトフェルド隊に合流して戦闘をしたという。皆の意見を知りたかったし、どうしたらいいか分らない自分の気持ちをさらけ出してしまいたかった。

「ぼく、地球ってはじめてなんです」
「俺だってそうだよ」
「あ、そうか」

他愛の無い会話で笑い声をたてるニコルを見ながら、アスランは自分の親友と共に居る由希について思う。

彼女の話は出逢う前からラクス伝いに聞いていた。実際の印象が違いすぎて、アカデミーで見かけた時は本人じゃないのではないかと疑いもしたが、クライン邸で見かける彼女は、いつも張っていた緊張を解いた普通の女の子だった。ラクスの話では、由希は地球を知っている。昔のことは深く聞くのを躊躇われた為よく知らないが、今の状況にそれが絡んでいるのなら、知りたいと思った。
モニターに映し出される地球に、彼らが居るのだと、アスランは複雑な思いでその青い惑星を見詰めていた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ