本編沿い
□Story19
1ページ/5ページ
空の下で笑うために
終わりが来たならあなたの淹れた珈琲で
Story19、終わりと始まり
「ごめんね、キラ。アンディの我が儘に付き合わせて」
誰もが予期する砂漠の虎との最後の戦闘の前に、作戦会議に参加するのではなく由希はキラの部屋へと足を踏み入れていた。
本当は作戦会議に参加しても良かったし、マリューも是非と言っていたのだが、今回の戦闘で整備士に徹するつもりの由希はさして重要なポジションではないだろうと断ったのだった。つい先日スパイ容疑をかけられた、という、地球軍の神経にもレジスタンスの神経にも触れかねない微妙で繊細な問題があった、ということも、勿論否定は出来ないのだが。
そんな複雑な事情は知らず、唯由希が自分の部屋へと訪れてくれたことに嬉しさを覚えていたキラは、由希の苦笑と共にかけられた真剣な声に、不思議だという表情を投げ掛けつつ、説明を求めた。
「アンディは昔からああなの。ずっと彼を倒してくれるくらいの存在を望んで、自分の本気が何処まで引き出せるのかを試したがっていた…闘士の本能、っていうのかな」
アンディは強すぎたのよね、と困ったように由希はキラに笑顔を向ける。
「私も最初は頼まれてたんだけどね、まだ小さかったから砂漠でアンディと暴れまわって…、異名がついたのもその時なの。宇宙での戦闘の方が有名だから引け合いに出されないけど」
「異名…って、“戦場の堕天使”?」
頷き、キラにすすめられるまま、ベッドに座るキラの隣へと腰かけた由希は、正確に誰が言い出したかは知らないけどね、と少し無邪気に笑った。
昔を懐かしむような由希の口ぶりに、自然と今まで聞きたかったことがキラの口から滑り落ちる。
「由希と…その、バルトフェルドさんは…どういう関係なの?」
「え、元上司と部下…みたいな?正式じゃないけどアンディはそう──」
「それだけじゃ、ないんでしょ?」
きょとんとしながら答えていた由希は、非常に言いにくそうに視線を落として尋ねるキラの意図を悟り、うつ向くキラの頬に苦笑しながら優しく手を当てた。
あたたかい温もりにキラが顔を上げたのを確認すると、由希は柔らかい表情でキラの疑問に答えを紡ぐ。
「アンディは…第2のお父さん、って感じかな」
もっとも、私は“お父さん”ってものをあまり知らないけど、と心の中で続けた台詞を呑み込み、由希は悲痛に顔を歪めるキラを抱き締める。
「…キラは、優しいね。…すこし……優し、過ぎるかな」
「由希は…いいの?バルトフェルドさんを討っても」
抱き締められたままぽつりと溢すキラに、由希は答えあぐねるように宙を見る。
「んー…難しい質問だけど、あんなに楽しそうなアンディを久しぶりに見たの」
リズムを刻むようにキラの背を撫で、空を見上げながら言う由希は、自分も大概馬鹿なんだけど、と前置きしてから口を開く。
「つまらなそうなアンディは、どこか哀しかった。夢なら叶えさせてあげたいし、それによって限界を知ったらちゃんとしてほしい。…アンディは悪運が強いから、殺したとしてもそうそう死にそうにない気がするしね」
過去の自分がつけた未熟なセーフティシステムも、ないよりはましだろう。最も、機体を変えたり気付かれて外されていたりしなければの話だが。
「キラのことだけが気がかり…ごめんね、辛い思いをさせて」
キラの心の痛みが少しでも和らぐように、由希はキラの額にキスを送った。