本編沿い


□Story16
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計算に合わないものがすきなのだと

かつて私の上司は言った──…




Story16、好奇心は猫をも殺す



ムウと二人でスカイグラスパーを飛ばしながら、タッシルの方角へと突き進んでいく。
近付けば近付くほど見えてくる惨状に、さすがにいつもおちゃらけているイメージのムウの口調にも苦いものがにじむ。

「ムウさん!あれ!」

由希に言われて町はずれの小高い丘へと視線を移す。
かなりの数の住民が生き残っているようだ。艦に連絡しながらも、ムウは敵の真意が見えないことに不気味さを感じていた。

〈由希さんの言っていたように…後味の残る戦闘はあまりしたくない、ということかしら〉
〈コーディネイターの考えるこた、わからないねえ〉
〈少佐、その発言は……不適当だと思います〉

モニターのマリューが思わず呟いたムウの言葉に憮然として言った。
確かに失言だったと気付くが、二号機から聞こえてくるかすかな笑いをこらえる声に救われた。

「コーディネイターが分らないんじゃなくて、虎が分らないんですよ。彼の腹心の部下でさえ、隊長の行動を読むことは不可能だって言ってましたからね」

いらない情報ではあるが、ムウの心は軽くなった。しかし由希は優秀なだけあって、お灸を添えることも忘れない。

「でも、ナチュラルもコーディネイターもそれぞれの考え方があるのは変わりませんよね?そもそも世界を二分化して考えていることがおかしいんです…って、こんな状況で言うことでもないですが。
とにかく、さっきの少佐の発言で傷付くコーディネイターがいないわけじゃありません。不適当な言葉の武器で傷付けることは許しませんよ。発言には、ご注意くださいね」

にっこりと締めくくった由希に〈き、肝に銘じておきます…〉と言ったムウのコンビは、それからそんな会話をしていたとはおもえないコンビネーションで下に降り、状況判断に努めた。

由希の予想していた通りに、死者は存在しなかった。だがしかし、家も、食料も燃料も弾薬も焼かれてしまった。
虎の懐に入れば明日の心配はしなくて済む。しかし、自分たちの自由というものはなくなってしまう。
残酷ではあるが両者の考えが分る由希はだからこそ治療等に専念し口をつぐんでいたのだが、正しくないとは言えないが少々空気を読まない発言の多いムウは、今回もやってしまった。

さっき発言には注意してねと言ったばかりなのに…そう思いながら、自業自得であると助けないことを決め込み、カガリとムウの口論に耳を傾けながら救助に力を入れていた。
その後さらに熱くなった男たちが虎を追いかけるというまさかの選択を紡ぎだし、止めたくはあるがこうなってしまったらもうそれも叶わないのだろうと思った。

きっとマリューならば、キラを行かせてくれると信じ、由希は泣いている子供に手を焼くナタルへ助け船を出しに行く。

「あ……そ、そんなにはないんだ。こ、困ったな……」

泣きわめく一人の子供にスナックを与えたために、それを見ていた周りの子供たちが集まってきてしまったのだ。
ナタルは汗をかいてあたふたとしている。笑ってはいけないと思いながらも、そんなナタルの姿が可愛くて笑みがこぼれる。
いっそそれを柔和な笑みとして携えて、由希は子供たちの方へ歩を進める。

「おねーさんの分が残りふたつでしょう?おねーちゃんの分全部あげるから、みんなで均等にわけてみよう!」

はい、っと惜しみもなく差し出したスナックに、子供たちは飛びつこうとし、しかし由希の言葉にはたと止まり、スナックを円の真ん中に置いてどうしたら皆で同じだけ食べられるかを一生懸命考えていた。
それを微笑ましそうに見守る由希に、ナタルが息を吐いて話しかける。

「その、深山大尉」
「はい?」
「助かった。子供の扱いは慣れていなくてな、どうしたらいいものかわからなかった」

顔を赤くして言うナタルに、由希はほほ笑む。

「そうですね、食べ物を上げるのはすごく簡単なのですけど、効果的ではなかったりするんですよね」
「そ、そうか…」
「あ、でも」
「?」
「ナタルさんが被せてあげてた帽子、ああいうのは、効果覿面だと思います」

にっこりと笑って由希が言うと、ナタルも帽子の行方が気になって子供たちのところを探す。
順番に被ったり被らせたりして、笑顔で遊んでいる。心なしかほころぶ顔に、由希も嬉しそうに視線を重ねていた。
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