本編沿い
□Story15
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乾燥している砂漠だからこそ
心にはどうかいっそうの潤いを。
Story15、砂塵の中の出会い
<第二戦闘配備発令!繰り返す、第二戦闘配備発令──>
夜間艦内に響いた警報に、寝ていた人々は慌てて飛び起きる。
まだ本調子ではない由希も、そうかといって寝てはいられなかった。
大気圏突破でストライクを大いに庇ったせいかリオンの装甲は修復に時間がかかり、地上戦のスカイグラスパーの整備を優先させていることもあってリオンに搭乗することはできない。
…そうでなくともドクターストップがかかっていて乗った瞬間船員皆に止められるだろうが。
パイロットスーツこそ着ないものの、由希はカタパルトデッキへと今できる最大の速度で向かっていた。
スカイグラスパーの周りで言い争っているムウとマードックの口げんかに、由希も参加する。
「ほら!だからさっき全部やるって言ったのに!」
年相応のような言葉に、二人ともあっけにとられた後、不本意ながら由希の可愛さに笑ってしまう。
「まーだ青い顔して何言ってるんだか」
「リオンなら動かせないぜ!てーか嬢ちゃん乗せたら叱られる」
「乗りませんよ!!いいから、スカイグラスパー飛ばせるよう今は精一杯頑張りましょう!!」
艦が発進するのを体で感じながら、焦っていた二人も由希の正確で素早い作業に感化されて落ち着きを取り戻しつつあった。
一足遅れてキラがカタパルトデッキに現れ、それに気付いた由希がストライクの方へと向かっていく。
コックピットから通信回線を開き、ブリッジのやり取りを聞く。追いついたキラが座りながら、由希と二人でブリッジに呼び掛けた。
「ラミアス艦長!艦の砲では小回りがききません!ストライクの発進許可をお願いします!」
冷静な二人の声に押され、発進に許可が下りると、由希は下に降りながらキラに向かって叫ぶ。
「発進までにいじってあげられなかったんだけど、重力と接地圧臨機応変にね!砂漠用に考えられてるだけあってバクゥは速いから、気をつけて!」
それに片手をあげることで了解を示しつつ、キラは初めての砂漠戦へと発進したのであった。
「それにしてもよく頭が回るなぁ嬢ちゃんは」
スカイグラスパーに戻ると、マードックが心底感心したように由希を見る。
周りの整備士もしきりに「由希ちゃんすげぇ」と呟き、由希は苦笑を送った。
「砂漠配属のときとかありましたし…」
言葉を濁しながらも、由希はそれきり作業に集中すると決めたのかスペックをいじり始めた。
ムウはどこかまた由希の変化を認めながらも、目下の仕事を再開した。
黙々と作業を進め、弾薬こそ積んでないもののなんとか発進できる状態にまで仕上げた。
刹那、艦内を大きな揺れが襲う。
「なんだ!?」
「これは…爆風による衝撃?」
「スカイグラスパー出るぞ!」
ひらりとコックピットに乗り込んだムウの真意を察知して、由希は整備士を下げさせる。
由希はその足でスカイグラスパー二号機に取り掛かった。リオンの整備が終わるまでは、何かと付き合うことになりそうだった。
戦闘に出れないことで、状況も、キラの様子もわからなかったが、不思議と恐怖は感じなかった。
それはキラに対する絶対の信頼などではなく、唯どんな事実も受け止める覚悟のなせる技だったであろう。
思わぬ協力もあって、アークエンジェルは危機を脱した。どうやらこの艦の悪運は相当強いらしい。
戦闘終了後にムウから入ったレーザー通信で敵母艦の正体がわかり、知ってはいたものの苦笑せずにはいられない由希なのであった。