本編沿い
□Story14
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どうせ奈落に落ちるならば、
私の精一杯で尽くすだけ。
Story14、遠い空の彼方でも、一緒に行くと決めたから
交戦中のメネラオスに庇われて、降下シークエンスに入っていたアークエンジェルに先陣隊列を突破したデュエル、バスターが向かってきている。
メネラオスが応戦しているが、時間の問題だろう。
ムウとキラのブリッジでのやり取りを、由希はどこか遠い世界のように聞いていた。
やさしいラミアス艦長は自分と同じ思いをしてくれているのだろう。
バジルールさんは冷静に戦力になるキラのストライク搭乗を喜んでいるはずだ。
ギリギリの中で発進命令が出た瞬間、自分の無力さを噛みしめながら、それでも、現実からは逃げられないなにかを、感じていた。
重力に引かれ思うように動かないのか、ストライクは方向転換するのにも一苦労しているようだ。
先にリオンの操縦系統を微調整していた由希は、ストライクに向かってくるデュエルのビームサーベルを受け、撥ね退ける。
───由希、ごめんな
発進前に、ムウとかわした言葉が思い出される。
───坊主、降ろすって約束だったのに
───…しかた、ないですよ…キラが決めて、戻ってきてしまったのなら、私は…そのキラを、また守るだけです
「そう…守ってみせる…!」
しぶとくしがみ付いてくるデュエルの攻撃を重力を感じさせないくらいさらりとかわし、新しい装備をはいでいく。
バスターと交戦するムウの方にも横やりを入れつつ、つい先日まで乗っていたガモフと、智将ハルバートンの乗るメネラオスの最後を由希は見詰めていた。その姿を焼き付けるように。
すぐにアークエンジェルからフェイズスリーに投入したとの通信が入り、ゼロは艦内に滑り込んだ。
由希は帰還しようとして、戻っていないストライクの姿を探す。しつこいデュエルと未だ交戦中らしかった。
「イザークもこのままじゃ重力に引かれるだろうに…!」
もと同僚の短気で冷静さを欠きやすい性格を思い出して、由希はリオンを駆る。
ストライクの蹴りがうまい具合にデュエルにあたり、後方に投げ飛ばされると、その隙にストライクが離脱を試みる。
それを逃がさんとばかりにライフルを構えたデュエルとストライクの間を、メネラオスから放出されたシャトルが遮った。
デュエルはシャトルがすぎ去ってからストライクに撃ち込むが、邪魔されたことに腹を立てたのか、シャトルにライフルを向ける。
「!!」
〈やめろおぉぉぉぉぉぉぉっ!〉
キラの声が無線から聞こえたが、キラ自身も間に合わないであろう絶望の中での絶叫だった。
撃ち込まれたビームに、しかしシャトルが貫かれる前にビームで相殺するという離れ業をやってのけたモビルスーツがいた。
〈リオン…!由希!〉
先程も自分をデュエルの攻撃から庇ってくれた存在に、キラは安堵して声をかけた。
しかし由希にはキラの声は届いていないのか、怒ったような声が聞こえた。
「イザーク!あれにはヘリオポリスの避難民が乗っているのよ!!!軍人なら撃つものを間違えないで!!」
〈な……〉
そのままデュエルのライフルを撃ちぬき、少しでも上にけり上げようとしたが、重力下では難しいらしかった。
今は敵の彼にそこまでする義理もないと、由希は機体を翻し、同じく多大な重力に引かれているストライクの手を掴んだ。
もうアークエンジェルに戻ることは出来ない。カタログ・スペック上の話はあくまでスペック上だ。
由希は少しでもアークエンジェルに近づけようと、残ったリオンの推力を駆使する。
後はもう、ストライクを庇うように──守るように、地球へと落ちて行くだけだった。
降下予測地点の、虎について、考えながら。