本編沿い
□Story13
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「最初のころさぁ、由希、坊主のこと嫌ってたろ?」
「……なんで、」
わかったんですか、という前にムウはウインクを投げかけてみせる。
「由希のこと見てれば分るさ。敵にまでやさしくしてくれたのに、ってな」
「………」
「なんでだ?」
「え?」
ムウの珍しく真剣な声に、由希は一瞬戸惑う。
「なんでキラを嫌ってたんだ?そして、なんで嫌いじゃなくなったんだ?」
由希は、躊躇いがちに視線を伏せた。
言葉にして、説明するのは簡単だった。すこし胸が痛むだけで。
以前までなら、本当に死にたくなるほど残酷だと思った古傷を聞かれているはずなのに、不思議といやな気はしなかった。
いつのまにか、この男のしっかりとした芯を信じていたように。
「…そうですね…いつか……」
由希は暫く、どこともつかない遠くを見つめてから、柔らかい笑みをムウに向けた。
「いつか、ムウさんになら、話してもいいかもしれませんね」
ちゃんと自分の話を聞いてくれ、さりげなく名前で呼ぶことにしてくれた由希。
なんという殺し文句だろうと思いながら、ムウはいつもの調子で両手を広げた。
「娘よ!お父さんの胸に飛び込んでおいで!」
「なに言ってるんですか…」
ふざけているのに、暖かくて、由希はまたすこし浮かべた笑みを、俯かせて消してしまった。
「由希…」
「………すいません、三分でいいです。肩…貸してください」
「だから…無理すんなって言っただろ…」
由希が頭を傾ける前に、ムウが由希の体ごと引き寄せて、抱き抱えてしまった。
逞しい腕に、今までこんなことは経験したことがないのだと今更ながらに気付き、その心地よさに目を閉じた。
「うーん、娘がいたら、こんな感じかな」
「…そうですね…お父さんがいたら、こんな感じだったのかな」
暗い過去を匂わせる由希の言葉に、あくまで明るい調子で努めていたムウの言葉は真剣みを帯びた。
「由希…お前…」
何を言おうとしたかは自分でも分ってはいなかった。ただ何か声をかけないと由希が壊れてしまいそうで。
「三分経ちましたね!メンテナンス行ってきます、お父さん!」
しかし由希はカラ元気に笑顔を振りまくと、するりとムウの腕を抜けてその場を去ってしまった。
残されたムウはただ一人、先ほどまで自分の腕の中にいた年齢よりも華奢な少女のことを、考えていた。