本編沿い


□Story7
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お願い、お願い

私だけなんて思わせないで




Story7、絶望の沼に桜色の花びらがひとつ




「…やっぱり私、大尉にお願いして整備の方に回るから」

冷たく由希は言い放つと、キラを残して廊下から消えた。







向かった先の格納庫で、マードックは由希の腕が確かなのを知ると揚々と仕事をくれた。

「嬢ちゃん、モビルスーツ乗りだったんだろ?整備まで完璧なんて…もう、いっそずっとここにいて欲しいくらいだ」

がはははと豪快に笑うマードックの裏のない言葉に、由希の顔に少しの笑顔が戻る。
そんな彼女を切なげに、苦しげに見つめるキラには気付かずに、由希は着々と与えられた仕事をこなしていった。



作業が始まり、意図せずとも着実に皆の雰囲気が暗くなっていく。
かつてコーディネイターの住処だった農業プラントユニウスセブン。
『血のバレンタインで母も死んだ……』
アスランのように家族を失う人も多かったことだろう。


私には、失える血の繋がった家族もいなかったけれど。



由希は自傷気味に笑う。
今は、誰をいたわれるだけの優しさなんてない。



「って!おい!!」

突然、格納庫が騒然とした空気に包まれる。帰還したポッドの収容だろうか、やけに騒がしいそれに、由希は不思議に思いながら駆け寄った。

「つくづく君は、落とし物を拾うのが好きなようだな」

副艦長の呆れたような苦々しい声を聞き、艦長と大尉にも似たような表情が現れる。
そんな彼らの前にはキラ・ヤマトと、話からするに彼が拾ってきたのであろう──救命ボートが横たわっていた。

「開けますぜ」

マードックの声に、周囲に待機している兵士達が一斉に銃を構える。

〈ハロ・ハロ……〉

間の抜けた声を出しながらボートから出てきたピンクの球体に、思わず目を見張る。
それは、どう見ても由希がよく知るものだったからだ。
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