本編沿い


□Story5
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仲間同士のいがみ合い。プライドなんて、クソ食らえ。




Story5、馬鹿げたお伽噺のように




「貴様、よくもっ……!」

ロッカールームに、イザークの怒りに歪んだ声が響く。

「おまえがあそこでよけいな真似をしなければ!」
「とんだ失態だよね。あんたの命令無視のおかげで」

壁にもたれ掛かっていたディアッカも、苦々しげにアスランに一瞥を加えた。
更にイザークがアスランを締め上げようとしたところでドアが開き、入ってきたニコルと由希は鬼気とした状況に目を見張る。

「なにやってるんですか!?やめてください、こんなところで!」

幼さの残るあどけない声で、ニコルはしっかりと言い放つ。

「五機でかかったんだぞ!?それでしとめられなかった!こんな屈辱……!」

イザークは自分のプライドが傷付いたことに対して怒りを浮かべている。それが、由希には許せなかった。

「だからって、ここでアスランを責めてどうなるの?」
「由希…」

冷酷な瞳でイザークを見つめる由希に、イザークは目を見張る。
イザークはもう一度アスランを睨みつけた後、ディアッカを連れてロッカールームから出ていった。

「アスラン…あなたらしくないとは、ぼくも思います。でも…」
「今は放っといてくれないか…ニコル」

ニコルの顔に浮かんだ気遣わしげな表情を見ないまま、アスランはロッカールームを出る。
残された由希は気負いながら溜息を付き、ニコルはどうしていいか分からずに俯くしか出来なかった。







───…






「え?アスラン、クルーゼ隊長と本国へ?」
「はい。ヘリオポリスの件で」

作戦会議のためブリッジへと向かう途中で、由希はニコルの言葉に納得の色を浮かべる。

「あー議会、大騒ぎらしいもんね…」

独断すぎるラウの行動には昔から吃驚だ、と溜息を吐く由希に、ニコルは苦笑いを返す。

「あの船はガモフが引き続き追うそうですよ。本国にはなかなか戻れそうにありませんね」
「ん…。またコンサート呼んでね」
「ええ!ぜひ」

由希はせめてもの笑顔を向け、大好きな彼のピアノの音色を思い出す。

「今度も由希に出演して欲しいですね」

優しい音を思い出していたときにニコルから笑顔で言われ、由希は音がしそうなくらいぎこちなくニコルに顔を向けた。

「ええと…なんだっけ?」
「由希にまた、ぼくのピアノで歌って欲しいんです」

空耳かも知れないと思い聞いたのに、ニコルは満面の笑顔で答える。その顔はあまりに無邪気で、元々年は近いがニコルが可愛くて仕方がないと思っている由希にとってはかなりの威力を発揮する。

「いや…でも私、歌の訓練受けてる人とかじゃないし」

ラクスにでも頼みなよ、と続けようとしたのに、ニコルは由希がさらに弱い、子犬のような目をして口を開く。

「由希は…ぼくとステージに立つのが嫌なんですか?」
「違うわ!ニコルのピアノが素敵すぎて、私が一緒じゃ釣り合わないなって…!」
「ぼくは由希とがいいと言っているのにですか?」

純真な目で、曇りひとつない好意を向けられて撥ね退けられるほど、由希は非情な人間ではない。

「ぼくは由希の歌声が好きですよ。曲を理解し、胸が震えるほどに共感しながら歌うんだ。この前のバラードでは伴奏しながら泣きそうにさえなりました」

照れたように言うニコルに、由希は胸を打たれる。ニコルの純粋さに、由希も次第に素直になっていく。

「…私も、ニコルの奏でる音がだいすきよ。歌ってて、包まれてる感じがするの。安心するから、ニコルのピアノで歌うのはだいすき」
「…じゃあ!次はフルでコンサートやりましょうね!」

乗せられたような気もするが、悪い気はしない。「約束ですよ」と言うニコルと指切りをして、細く綺麗で優しいニコルの手を見つめた。戦争なんか似つかわしくない、温かい手。
唯一自分にこうして歌う楽しさを教えてくれた親友に感謝して、由希は嬉しそうに微笑むニコルと以前のコンサートでの話をしながら、ガモフの艦長の元へと足を運んだのだった。
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