本編沿い
□Story3
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「はい、憶測ではありますが…私もあの艦──あしつきは、アルテミスに向かうかと」
由希のはっきりとした意見に、ラウが満足そうに頷く。
「そうか、やはり君の意見を聞いておいてよかった──やつらはアルテミスへ向かう。ヴェサリウス発進だ。ガモフを呼び出せ」
ラウはアデスに向かって言い切ると、ゆっくり由希の方へと振り向く。
「これからアスランを呼ぶ。君はアスランが命令違反をした理由を聞いているのかね?」
「はい。ですが、詳しいことは聞いておりません故、当人から直接お聞き及びになった方がよろしいかと」
テキパキとブリッジを出る準備をしながら淡々と返す由希に、ラウは仮面の下で笑って見せた。
「私は君に立ち合って欲しいのだが」
「……そういうことでしたら、出来る限りは」
任務中の会話だというのに、オフ時のような態度を見せるラウに戸惑いながらも、由希は了承する。ブリッジを出て隊長室へ向かう為に肩を並べていると、珍しくラウが真剣な声で囁いた。
「…あまり無茶をするなよ、拾ってやれないかもしれないのでな」
そんなラウに由希は一瞬昔を思い出して目を見張るが、すぐにどこか切なげな笑みを浮かべ、答える。
「…お気持ちは、ありがとうございます。でも捨てられるのは慣れていますし…それに、私も宿命に身を捧げるモノですから」
その顔は何もかも諦めたような笑顔。
気さくにも見せるのに、大事な自分の一線への侵入は決して許さない笑顔。
ラウは嘲笑した。やはりこの娘は、自分に似ているのだ、と。
「アスラン・ザラです!通告を受け、出頭いたしました!」
アスランの余りに鯱ほこ張った敬礼に、普段とのギャップが手伝って部屋の隅に立っていた由希が思わず吹き出した。アスランが予期していなかった存在に目を見張ってこちらを見る。
「由希!?」
「あはは、ごめんアスラン。気にしないで」
手を軽く挙げて謝罪してから腕を組み、壁に凭れるように下がった由希を確認すると、ラウが口を開く。
「君と話すのが遅れてしまったな。呼ばれた理由はわかっているだろう?」
ピシッとした物の言い方に、アスランは再び背筋をピンと伸ばした。
「はっ……命令に違反し、勝手なことをして申し訳ありませんでした!」
「懲罰を課すつもりはないが、話は聞いておきたい。あまりに君らしからぬ行動だからね」
アスランは顔を強ばらせて俯く。
そんなアスランに近付くように立ち上がるラウを、由希は静かに見つめていた。
「──部下からの正確な報告がなければ、どんな将とて策を誤るものなのだよ。アスラン」
「申し訳ありません……。思いがけないことに、動揺してしまい…」
アスランは少し視線を泳がせた後、意を決したように真正面を向いて口を開いた。
「あの奪取し損ねた最後の機体……あれに乗っているのはキ「くしゅっ!」
アスランの今にも震えそうな真剣な声に乗せて、場に不似合いな可愛らしいくしゃみが届く。
「……すみません」
振り向くと、由希が辛そうにハンカチで顔を覆いながら小さく謝罪していた。
アスランは心配そうに由希を見た後、ラウに視線を戻す。ラウは心なしか苦笑ともつかない笑顔を浮かべていた──気がした。
「出撃まで仮眠をとりなさい。体調があまり優れないようだしな、気が付かなくてすまなかった」
「いえそんな……本当にすみません。…失礼しました」
由希は苦笑を浮かべると隊長室を後にした。
後にラウとアスランの間に、どんな会話が交わされたのかも知らず。