本編沿い


□Prologue&Story1
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平和、

なんて名ばかりで、実体の見えない言葉。


Story1、崩落の日



いつになく緊張した面持ちのザフト軍兵士たちが、何かの訪れを待つようにただ静かに沈黙を守っていた。
その中でザフト赤服のクルーゼ隊メンバー──ニコル・アマルフィを除いて──はいつもと変わらない淡々とした表情をしている。

「作戦開始まで後10分もないな」

楽しそうに言うイザーク・ジュールに賛成するかのように頷いたディアッカ・エルスマンは、しかしクルーゼ隊赤服唯一の女性由希・深山に一瞥を与えられると、調子に乗りすぎたことを悟ったのか簡単に縮み上がった。

「そろそろ待機場所へ行こう」
「貴様如きに言われなくても分かっている」

そんな皆を見かねてアスラン・ザラが一声掛けるも、反発的なイザークによってはねのけられる。
それをニコルが宥めるのを見て、笑うのがラスティ・マッケンジーの役目で。
すべてを傍観するのが由希だった。

「ふざけないで、本当に。…置いてくわよ」
「由希、そりゃねぇぜ」

でもその日ばかりはすこし由希の機嫌が悪かったようで、ムードメーカーなラスティがすかさず突っ込みを入れてくれて助かった。

「ラスティ、ごめん…ありがと」

雰囲気を纏めてくれたラスティに対して少し落ち着いた瞳で礼を言うと、由希は歩き出す。

「待て由希!俺も行く」
「俺もそろそろ…」
「ぼくももう行きます」
「置いてくなよなァ」
「…緊張感持てよ」

イザークが由希を追いかけ、アスランも動き出し、ニコルがそれに続き、ラスティがぼやき、ディアッカが突っ込みともつかない小さな声で呟く。
クルーゼ隊の名物とも言えるそれに、周りのザフト兵も少し表情を緩めながら持ち場に付き、それぞれが開始の合図を待った。

…すべてのはじまりである、モルゲンレーテのMS奪取作戦開始まで、もう数分もなかった。







一方此方はヘリオポリス。
外でどんな謀略が起こっているかも知らず、学生達はカトウ教授の実験室へと足を踏み入れていた。
いつものように他愛無い会話を続けていた矢先、突如轟音と凄まじい揺れが彼らを襲う。

「──なに?」
「隕石か?」

それぞれが思い思いに言った言葉は、駆け上がってきた職員によって脆くも否定される。

「ザフトに攻撃されてる!コロニー内にモビルスーツが入って来てるんだよ!」
「ええっ!?」


自分たちが今まで平和だと信じていた物が偽りだと分かった時、それまでの世界は崩壊を始め、一瞬の後には跡形もない荒野となる。
すべての破壊の後には、“平和”は言葉ばかりが独り歩きをする、中身のない骸でしかなかった。
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