本編沿い


□Story32
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強くあれ、気高くあれ。

誇りを胸に芯を貫く強さを、今。



Story32、友と正義と自由と剣



開戦の九時を回り、決意を堅く固めた面々はそれぞれの守りたいもののために精一杯力を尽くしていた。
人によりする事は違うそれだが、思いが同じ分誰にとっても同等に負荷される責任は皆の連帯感をより一層高めていた。
今まで艦長として、トップとしての責任を追ってきたマリューは思う。自分一人で戦うのではないと真に実感した時の、心強さは最高の原動力である、と。

そしてそんな彼らの動きを見つめながら、未だに迷い躊躇い足を留めている者たちがいた。
その者たちは奇しくも元々同じ所に属し、自分に向けられる戦争から生まれた悪意に初めて向き合い、己とは違う方へひたむきに走る者たちの姿を見て考えさせられた。
彼ら自身にそれを知る術はないのだが、きっと数奇な運命だと言わざるを得ない。空と地上、居る空間こそ違ったが、彼らが迷ったことも、行動に移したタイミングも、まるで図ったようにほぼ同じだったのだから。

「とっととそこから下がれよ!アークエンジェル!」

混乱に乗じて避難民にまぎれることも可能だったというのに、ディアッカ・エルスマンはオーブを離れようとはしなかった。それはアークエンジェルに残って戦っている“友”が気がかりだったり、地球軍の残虐性が今までの己に被って見えてたまらなく厭だったりと自分で色々と考えた結末ではあったが、もうどうしようもないくらいに身体が動いてしまったからというのも素直で良い気がした。

〈ディアッカ!?…なんで?〉

すっかり御馴染となった白亜の艦から洩れるのはミリアリアの驚いた声だ。捕虜から漸く逃げ出した筈のザフト兵が何故か戻ってきて、あまつさえアークエンジェルを援護しているのだから彼女の驚きは当然のものだが、どうやらその彼氏にとって認識は違ったらしい。

〈うおー!流石俺の親友だな!粋だねェ、ディアッカ!〉

戦況はバスターが加わったと言っても厳しいことには違いないので、相変わらず目は真剣に。しかし口角を釣り上げてニヤリと言ったトールに、笑うと同時に戻ってきて良かったと感じる。今までにないくらい色々と考えさせられた時間の後で、かつての自分に戻るのはきっと厳しかったし、何よりも。

「ばーか、ちげえよ。俺は由希にフレイからの伝言を届ける義務があんだからな」

この艦と共に居れば、由希にもニコルにも会えるのだろう。文句も伝言も罵詈雑言もディアッカは全部投げつけてやるつもりだった。そして、その後自分に似合わない素直さで告げようと思うのだ。「生きててくれてよかった」と。そのためには、アークエンジェルには此処で消えてもらっては困る。それだけだ、とニヒルに考えながら、彼自身それだけではないことに気付いていた。彼らの強い信念に憧れた様に、彼らの真っ直ぐな思いを守りたいと思ったように。ディアッカもまた、力強い意志を持ちたいと思ったのだ。誰に恥じない、確固たる決意を。



そんな同期に一歩遅れて、アスラン・ザラも迷いの中で手を伸ばす決意をした。相変わらずぐるぐると彼の思考には色んなものが回っていたが、地上に降りて巡礼のように回った戦火の跡や、オーブ近くの島で子供に向けられた純然たる敵意が、今まで以上に現実となってこれまでの彼を揺るがせていたから。宇宙を発った時彼は、親友であった少年と、ただ話したいと思っていた。命令ではなく、純粋に話そうと。なればこそ、彼の取るべき道は一つだった。話し合いの前に、話し合えない状況になるのは二度とごめんだ。

「こちらザフト軍国防本部直属所属特務隊──アスラン・ザラだ…!聞こえるか、フリーダム…キラ・ヤマトだな?」

青い翼を持つ機体に向けられたビームを盾で防ぎながら、アスランは震える声を抑えるように固く呼び掛けた。どう言い訳しても一度手に掛けた彼に、心を全く揺らさず呼び掛けるには少年はまだ若すぎた。

〈アスラン…?…っ、どういうつもりだ!?ザフトがこの戦闘に介入するのか!?〉

動揺しながらもキラはジャスティスを狙ってきた機体へ斬りかかる。2人の再会はあまりにも慌ただしい状況だったが、背中を合わせる連係プレイは何故だが妙にタイミングがあっていた。

「軍からはこの戦闘に対して、何の命令も受けていない…この介入は──俺個人の意志だ!」

息をのむキラも、アラスカでアークエンジェルを助けた時“そうしたかったからだ”とムウに答えていた。誰に命令されて動いたものは此方側の何処にも居ない。自分の気持ちに素直になって動けた時、きっとそれがこれまでの己との明確な決別なのだ。

「おまえとその友軍に、敵対する意志はない…ただ話がしたい…おまえと」

相変わらず身体は慣れた戦闘をしながら、ただ“話をする”という行為がこれまで出来なかったことを思うと、アスランは胸が詰まった。単純すぎる、人と人が居る上で当たり前のことを2人はやって来なかった。やる術を持たなかった。けれど今は違う。キラも、アスランも、その意志と決意と──喜びは同じだった。だからこそ、この戦闘を終わらせて、友と話す時、アスランはきっと何か変われると思ったのかもしれない。強い結びつきのある2人に、バラバラな機体扱いをする連合三機が適う筈もなく、タイムリミットと共に第一の戦闘の終了が知らされた。また慌ただしくなってしまう前に、この地球で、友と話すのだ。
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