本編沿い


□Story30
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誰もが悩み迷いながら選び取り進んでゆく道

それは時に重なり離れながら、続いて行くもの



Story30、それぞれの決意



キラの話を一頻り聞いた後、結局現状で誰も軍に戻る気になれなかったアークエンジェル一行は、由希の言葉通り進路を二度目のオーブに定めた。目的地に着くまで久しぶりに艦内を歩いたキラは、気持ちの変化からか前とは違う印象を受けるアークエンジェルに新鮮さを感じていた。
かつての自室に入ると、其処にはキラの私物が小さく纏められた箱が一つあるだけで、簡素な部屋には一抹の寂しさを覚える。するとキラの背後から、懐かしいさえずりが聞こえた。

〈──トリィ〉

反射的に振り向くと、そこにはサイの肩に止まったまま首を傾げる自身のロボット鳥がいた。

「相棒、連れてきた」
「ありがとう、サイの所に居たのか」
「いや、ソイツずっと由希の部屋に居たぞ」

近寄って来るサイの肩から自分の方に飛んできたトリィをそのまま受け取っていると、いつの間に来たのかトールが脇からひょっこりと顔を出し、ニヤニヤとした笑みを浮かべる。

「やっぱペットは飼い主に似るもんだよな」

一瞬言われた意味がよく分からなかったが、トールの言葉を反芻していく内にキラの顔は赤くなっていく。

「主人の大事な彼女の寝室を守る、立派な騎士だ」
「ッ!トール!」

真面目くさった顔で言うトールには勿論からかいの色が見えて、キラは今度こそ声をあげて怒った。しかしトールは意にも介さず笑うばかりで、隣ではサイまでもが肩を揺らして笑っているものだから、キラは自然恨みがましい視線を2人に向ける。

「……サイまで」
「ごめんごめん、でも、俺はトリィが飼い主たちに似てとっても優しいことも知ってるぞ」

相変わらず笑いすぎて涙目になっていたサイだったが、自分を心配するような仕草を見せて涙が乾くまで側に居てくれたトリィを思い出してか、至極柔らかい表情で告げる。勿論そんなことがあったなんて知らないキラは首を傾げるしかないのだが、又しても思わぬところから肯定が返って来た。

「それ分かる!どうしても悲しくなっちゃった時とか、由希の部屋に行ったらこの子が慰めてくれたよね」
「え、…なんだ、そのロボット鳥に慰めて貰ってたの、俺だけじゃなかったんだ…」

ミリアリアはキラの隣でトリィの頭を撫でながら朗らかに笑い、カズイは自分だけが弱気になっていた訳ではないのだとホッとしながら、様子見と表しつつ扉の前でおずおずと覗いていたのを止めて部屋に入って来る。

「なんだよ、結局全員トリィの世話になってんじゃねえか」

最後のまとめと言わんばかりにトールが笑うと、皆もくすくすと笑う。心配をかけていたことに申し訳なさを感じたが、それ以上にキラは嬉しかった。アスランが作ってくれた大事なペットロボットは、キラが不在の時でも主人の大切な友人を守り寄り添っていてくれたのである。しかしふとトールの言葉に疑問を感じ、口を開いた。

「あれ、全員って…そう言えばフレイは?」

アークエンジェルに戻って来てから、真っ先に自身に詰め寄り由希の無事を確かめそうな少女の姿を見ていないことに気付き、キラは首を傾げる。

「フレイ、アラスカで転属になったんだ。フラガ少佐や、バジルール中尉と一緒に」
「え?あれ、少佐ここに居たよね?」
「ああ、うん──少佐は戻って来ちゃったんだけどさ、中尉とフレイは行ったよ。今頃はカリフォルニア辺りに居るんじゃないかな」

サイの言葉にキラは少々腑に落ちないものを感じたが、由希の大事な友達が安全な場所にいるならそれでもいいと結論付けることにする。プラントで出来た新しい友達──自分のペットロボットとよく似た若草色を持つ彼との話もとても楽しかったけれど、久々にキラ達はヘリオポリスに居た頃のようにはしゃぎながら話せることに束の間の幸せを感じるのだった。
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