小説

そんな時の為の殺し文句
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風邪なんて、ひくもんじゃない。
少年は熱を帯びぼやっとする頭のまま、風邪になるメリットとデメリットについて暇潰しに脳を動かしていた。その結果、風邪をひくデメリットの多さに彼の心に居座る膨大な数のネガティブの申し子が咽の奥底から溜息を漏らす。
――何よりも彼に会えない事が、俺をこんな下らない思考に嵌まらせる最大の原因。

「ひ、ば、り、さ、ん」

誰にも聞こえないくらい小さな声で、だけど一文字一文字はっきりと、彼の名前を口にする。
ああ、恋する乙女みたいに胸がぎゅうってなる。結局数多のデメリットなんかどーーーでもよくて、雲雀さんに会えたらそれで、それでイイわけでも無いけどさあ。

「会いたい」

少年は熱からか恋情からか、頬を朱色に染めて布団に潜り込む。海に潜るみたいに、ゆっくり…息を吐きながら。
…―堕ちる様に眠りについた。










僕の得意技、人の家の窓から室内に侵入する事…なわけ無い。が、出来るモノは仕方ない。今頃熱にうなされている恋人の元へ向かうには、玄関から入るよりも窓から入った方がロマンチック。とか関係無しにただいつもの動作で窓から入る。

「――うぅ…しぬ」

突如聞こえた恋人の声。死ぬだなんて縁起の悪い事を零す。

「つなよし、しんどいの?」

ベッドに近寄り頭まで被った布団を剥がすと、顔を真っ赤にした少年が目を潤ませてこちらを見る。

「ひ…ばりさん?」

戸惑いがちに呼びかけると、少し微笑み額に手を当てた。

「熱いね」

「だって熱あるもん、38.2ど」

そう返せば「可哀相に」と苦笑する。

「あ〜…雲雀さん」

「…会いたかった?」

「うん」

上から俺を見下ろす彼の首に腕を絡めれば、次第に縮まる距離……貪る様なキスの雨。彼の唇は冷たくて、とても心地良い。

「風邪うつっちゃうかな」

「うつしたらいいよ。そしたら治るらしいから」

そう鼻で笑って、またキスを繰り返す。まるで何かを喰ってるみたいなキスは、俺の中の悪いモノを喰らい尽くしてくれないだろうか。





そうして風邪がうつったら意識朦朧とする君に跨がって、嘔吐する程愛してあげるよ。





――これは雲雀さんが寝込んだ時専用の殺し文句。
(本当に殺しかねない所がスリルでいいでしょ?)










2009.10.17 Airu
巷で流行りの新型インフルになった記念に書いた、後悔はしている←


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