小説
□とろとろに蕩けて
1ページ/1ページ
君の瞳が好き。人形みたいにくりくりしてて、何より汚れの無い…無垢な瞳。
君の唇も好き。少し冷たくて、柔らかくて、いつも僕を包み込んでくれる。
君の手足が好き。白くて細くて、雪の様。いつも僕を求める手、僕の元に向かうための足。
君が好き。僕の一番大切な人。
「でも、そんなに愛しきれない」
「…?何が?」
「君が好きだ」
「…な、いきなり何言ってんだよ!」
「君の瞳が好きだ君の唇が好きだ君の手足が好きだ君の髪が好きだ君の指が好きだ君の…―」
「もうわかったから!ストップ!」
少年は雲雀の"〜が好きだ"連呼に若干ひきつつ照れている。どんな形であれ好きだと言われれば嬉しいし照れるし。
「ね、君の全てが好きなのに、それを伝えるにはかなりの時間がかかる」
「そう、で、何なんだよ」
雲雀は机に置かれたティーカップを手に取り、中に入っている紅茶を見つめる。そこにはなんら変わりない自分の顔が映っていた。
それをひたすら見つめ、彼は言葉を続けた。
「君が君という一ツの物ならよかった」
「…え、一ツの物…てか一人の人間なんだけど。俺ってそんな複数いたっけ」
「違うよ。君は君を作り出すパーツで構成されてるの。だから一人の人間だとしても一ツの物じゃない」
「うー……何か難しい」
少年は茶色い髪をわしゃわしゃと掻きむしり、眉間にシワを寄せた。
少年、綱吉は馬鹿だ。だからわからないわけじゃなく物事の捉えかたが雲雀とは違うから理解出来ないのだ。
基本の観念が違えば、なにもかも違ってくる。種が違うから、同じ花が咲かない。そんな当たり前の事と一緒だ。
だが、それでもほんの少しは理解している。
「…つまり、俺が、"手"とか、"足"だけの、生き物だったら良かった…の?」
「いいや、もっともっと細かく。血…あ、ヘモグロビンとかかな?」
「そんなの気持ち悪いでしょ」
「つなよしが気持ち悪いわけないよ。いっその事、細胞分裂する前にならないかな」
君の全てが、とろとろにとろとろに蕩けて一ツになってしまって。
そしたら一度の言葉で、君の全てに愛を伝えれる。
でも僕への思いだけは、とろとろに蕩けたりしないで。
2009.09.13 Airu
こちらからお題頂きました。
揺らぎ