小説

ますます悪化
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ベッドの端に両腕を預けて、ミーは尋ねた。

「具合はどうですかー?」

「……最悪」

ベルセンパイはそう言ってからくしゃみをした。

ここのところ、センパイは風邪で寝込んでいる。任務前のミーは、そんなセンパイのお見舞いに来ていた。

ただでさえ一人欠けているんだから、くれぐれも風邪をもらうな、と釘をさされてきた。もらわないように注意しなければ。

センパイがミーの指に触れてきた。

「カエルー、また任務?」

「そうですー。本来はセンパイとの任務だったやつですー」

「誰とになった?」

「変態雷オヤジですー。最悪…」

「ご愁傷様」

センパイに指を絡め取られ、ぎゅっと握られた。

「何のつもりですー?」

「べっつにー。単にフランに触りたいだけ」

「風邪移るんで、離してくださいー」

掴まれた手をぶんぶん振るが、まったく離れない。病人のくせに、妙に力がある。

「いや、単にお前が力ないだけだから」

「……なんで答えが返ってくるんですかねー。心の声のはずなんですがー」

「見てりゃわかるよ。俺」

「王子だし」

先回りすると、センパイはわかってんじゃん、と笑い、せきを一つ。

「ほらー。まだ治ってないんですから、寝てくださいー。離してくださいー」

「ええー」

不満げなセンパイにため息が出た。

「さっさと寝て、さっさと治してくださいよー。任務が滞るんで」

「あー、一人いないと仕事増えて、負担重くなるもんなー」

センパイがうなずいてそう発言した。

確かにそれもあるけど、そうじゃなくて。

「センパイが心配で、任務に集中できないんですー」

そう言って、ミーはセンパイの顔に目を向けた。さて、どんな表情をしているだろうか。

「………」

センパイは口を半開きにしていた。頬を見れば赤く染まっている。これは、照れてるんですかね。らしくない反応だけど。

「可愛いですねーセンパイ」

ミーはくすりと笑って、手を握り返した。するとセンパイは我に帰って、ばつが悪そうな顔をした。

「王子が可愛いわけないだろ」

「いえー、実際、今のセンパイ可愛いですー。あ、熱出てきましたよー。ますます悪化しちゃいましたねー」

センパイの額に手をやると、乱暴に払われ、握っていた手がぐいっと引かれる。

ミーとセンパイの間には、互いの息がかかるくらいの距離しかなくなった。

センパイが空いていた手で、ミーの頭の後ろを前へ強く押せば、ふたりの唇が軽く触れ合った。けれど頭はさらに前へと進まされる。軽く、なんて言えなくなるくらいに触れている。

ようやく離されたら、センパイはいつもの笑みを口に刻んでいた。

「ししっ、顔赤いし」

「だ…誰の、せいだと思って」

荒い呼吸をしながらミーが答えると、俺のせいだろ?とセンパイが言う。

センパイが調子を取り戻してしまった。これじゃあ、いつもと変わりない。

「なあ、まだ時間あるよな?出発は夜だったし」

先手を打たれ、ミーは押し黙る。逃げられなくなったじゃないか。

「……う、わっ…!」

視界が暗転して、頭と背中には布団の感触、目の前には堕王子。仮病を使っていたんだろうか。

「ずっと寝込んでてさ、王子、そろそろ限界なんだよなー」

「だからなんですかー」

「相手して」

「嫌ですー!」

ミーはじたばたとセンパイの下から暴れる。しかし効果はゼロ。センパイは、さっきも今も離す気なんてさらさらないらしい。

「悪化しますからー!」

「フランに移すもん」

「やめてくださいー!」



こんなことをしたら、ますます悪化してしまう。



中にひそむ病魔が、またミーを蝕んでいく。



あなたに溺れて、離れられなくなっていく。





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