小説

求めた時点で僕の負け
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「L…なぁL!いないのか?」

先程まで隣で寝ていたLがいない。どの部屋にいるのか…探すのも面倒だけど、一緒にいないと落ち着かないし。
次々とドアを開けてみても、Lの姿は全く見当たらない。そんなにうろちょろする様な人じゃないし、珍しいななんて思いつつ、まるで迷子になった子供みたいに妙に焦る気持ちを抑えながら彼の姿をひたすら探す。
あぁ、何をこんなに焦っているんだろう。彼に置いて行かれた気がしてならない。彼に…見捨てられた様な気がして、不安で、こんなに自分が情けない奴だとは思いもしなかった。

「L…?」

そこは一般的に台所と呼ばれる場所。Lにはかなり似合わないと思われるそこに、彼はいた。
白いエプロンをしながらだ。しかも紐が蝶々結びでは無く団子結びになっている所が彼らしい。

「何してるの?」

「お腹が減ったのでクッキングタ〜イム」

何の抑揚も無い声でそう告げると、紫色をした液体をミキサーで混ぜはじめる。
"紫色をした液体"は確実になんらかの有害物質が入っているとしか思えない。微かに臭いし、こんな物を最終的に食べ物にするのは無理だろう。

「ちょっと、それ、止めた方がいいんじゃないか?」

「大丈夫ですよ、食材から作った物は必ず食べ物になります」

「その食材や組み合わせに問題があると思うんだけど?」

するとしばらく黙り込んだ後、ミキサーにかけていた謎の液体をみつめ、「月君なら、飲める気がするんですよねぇ…」なんて言いやがった。
僕なら飲める?無理に決まってるだろ!てか何でジュースなんか作るんだよ…普通お腹が減ったならホットケーキとかおやつの王道作ればいいのに、簡単だしね。馬鹿だな。

「僕に飲めるならLにも飲めるよ、早く飲んだら?」

さっきまでは多少心配して、それを飲むのを止めようとしたわけだが、僕にこんなモノ飲ませようとしたから(そうとは限らないけど、言い方からして僕に飲ませる気満々じゃないか)腹が立った。
飲んでお腹痛くなって死んでしまえ。

「…えー、嫌ですよ。私、月君のために一生懸命作ったんですよ?」

液体をミキサーからカップに注ぎ、それを手にずいっと一歩近付いて来る。
近くで見れば見る程気味の悪い液体だ。魔女が煮込んでそうな感じのアレ。
Lは有り得ないくらいの満面の笑みで…しかしどこか脅しの入った声で、「さぁ早く、飲め(飲んで下さい)」と言った。
空耳だろうか、"飲め"と言われた気がしたけど、彼がそんな言葉遣いするはず無い。

「無」

理と言おうとした瞬間、カップを無理矢理口に押し当てられて、液体を流し込まれる。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い…!
やめろ!
しかし自然と開いた口に流し込まれる液体は、遠慮も無くドクドクと月の喉を通り抜けて行く。

「う…ゴフッ」

やっと液体が無くなると、目の前に佇むLはニヤリと笑い、そう、ただ笑っていた。
―…身体が芯から熱くなる。お風呂に入った時の心地よい温かみではなく、本気で焼け付くように熱い。
やっぱりこれ変な物入れたんじゃないの…!?

「どんな気分ですか?」

「あ…ッつい!何入れたんだ!?毒でも入れたんじゃ…―」

「やだなぁ、毒なんて愛する貴方に飲ませるわけがない」

「じゃあ何を…!」

「…―」





ちょっと、媚薬を。





そう聞いた月は、咄嗟に逃げ出そうとするものの、服を掴まれ後ろに倒れかかる。

「ベッド、行きましょうか」

こんな事になるなら、彼を探さなければ良かった。





求めた(探した)時点で僕の負け。










2009.09.16 Airu
Rogiへ相互記念(^-^)


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