小説

壊れるは、形あるモノの末路#*
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すぅ…っと、白い肌に紅い線が引かれる。線から溢れ出た雫は、脇腹を伝いシーツに染みを作った…紅い、紅い染みを。
微かな痛みに顔を歪めると、背後から大層機嫌の良さそうな笑い声が聞こえて来る。

「あぁ…とても綺麗ですよ、クフフ。だから、君が誰かのモノになってしまうくらいなら…今この手で、殺してしまいましょうか」

ベッドの上に俯せにさせられ、背中を刃で傷付けられる。
背中に走る痛みと下半身の甘い刺激が、脳内をピリピリと犯していく。

「…ッぁあ!」

「痛い?気持ちいい?もっと鳴いて下さい…」

先程妙な薬を飲まされたせいか、身体全身がまるで性感帯の様だ。背中に走る痛みでさえも快楽へと変換される、神経が麻痺しているのだろう。
―…雲雀は抵抗しなかった。彼が自分を痛めつけようとするのも、それは行き過ぎた思いの結末なのだから。なら、それを受け入れるのが"思いに答える"ってものでしょう?

「君が僕を見ないから…」

違う、見てる、今も、ずっと。

「僕以外のヒトの所へ行こうとするから」

それも違うよ?あなた以外考えられない、あなたしかいない。

「あぁもう…ぐちゃぐちゃにしてやりたい」

そう言うと、より深く、刃で肉をえぐった。彼岸花の様に溢れ出た血、それはまるで死への時をカウントダウンしている血の時計。
大量の出血で頭がクラクラする。
意識を手放しそうになった瞬間、骸は雲雀のナカから一気に自身を抜き、そして力強く突き上げる。普段なら嫌になる程出る喘ぎ声も、今の雲雀にはそんな声を出す体力さえ無かった。
ただ痛みと快感に包まれながら、流れゆく血を見つめるだけ。
すると急に、挿れたまま仰向けにさせられる。ナカを掻き交ぜられる感触が、こんなにも不快に思った声は無い。血と蜜が混ざり合って、耳障りな音をたてる。
シーツと傷口が擦れて、さらにシーツは血を吸い込み、鈍い痛みが身体全体を襲う。

「綺麗ですよ…この瞳も、えぐり出して食べてしまいたい」

そう言って瞼を舐め上げ、次に唇に優しく触れたかと思えば、耳元で「大嫌い」と呟き、唇に噛み付いて来た。
口内に血の味が広がる。
…もう優しいキスもくれないのかい?

「クフフ、そろそろ気持ち良い事に専念したいんでね…ナイフはお預け」

まだ痛めつけて欲しかったのでしょうとでも言うようにナイフを振ると、サイドテーブルに乱暴に投げると、雲雀の膝を肩にかけて、何度も自身を前後に動かす。
膨脹しきったソレは、雲雀を容赦無く犯していく。

「どうしました?鳴いて下さい…いつもみたいに、僕の名を呼んで」

「…む、くろ」

「雲雀…」

「む…く、ろ」

「雲雀…さようなら」

雲雀のナカに欲を放ち、真っ赤に染まった少年を見る。
淫らな蜜を垂らし、血色に染まった少年は、まるで何処かの宗教画の様に綺麗で…汚してはならないモノを汚してしまった様な気分に苛まれる。
虚ろな目で自分を見つめる少年が…愛おしいのに酷く憎い。
所詮幻と生きて来た僕には、手に堕ちない…心あるモノを愛でる事なんて出来ない。
わかってたけど愛したかった、いつか傷付けるとわかっていても…愛したかった。

サイドテーブルに投げたナイフを手に取り、少年の左胸に当てる。

「思い通りにならないのなら…もう、"イラナイ"」

振り上げたナイフの刃が向かうのは…―自分。
そのまま雲雀の隣に倒れ込み、そっと彼の頬に手を伸ばす。

「きっと、来世で…―」





滴り溢れ出た血は、死への時を刻む、血の時計。
すれ違う思いと、行き過ぎた愛と、彼の理想論と、全てがデタラメなパズルを組み立てる材料。いつか壊れる形ある物。
暗闇に包まれた廃墟の中、白い世界に包まれるは、真っ赤に染まった少年と…―。





壊れるは、形あるモノの末路。










2009.09.12 Airu


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