小説

君を感じたい*
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例えば全て幻ならば…―。君も、僕の存在も、その言葉も世界も愛も、なにもかも幻なら、今よりきっと楽だろう。
幻だからと妥協出来る。現実では無いのだから気楽に生きていける。…いや、違う。だとすれば僕も幻なのだから、幻には現実も何も無いのなら…幻が僕にとっての現実になるのだろうか。それさえも幻…?確かに存在しない物が幻?しかし存在しないと言う事実でさえ幻の中では幻になる。
幻は、無。何も無い、何も無いという言葉さえ無い。いや、あるのだけれど結局は幻なのだから実質無いのだ。
「無い」のでは無い、「 」なのだろう。

「もしかしたら今の僕も、君が見せている幻なの?」

「クフ、そんなわけ無いでしょう?それなら僕は幻を愛している事になるじゃあないですか」

「さぁ?それじゃ、逆に君が幻なのかな」

「…そう思います?」

コンクリートが剥き出しの廃墟の中、窓ガラスもついていない窓際に佇む男は、橙色に染まる眼下の景色を、どこか慈愛に満ちた瞳で眺めながら、少年にそう尋ね返した。

「幻だったらいいのにね」

「何故…?」

「幻だったら…何となく、いいじゃないか」

「何となく、ですか?僕は嫌ですけどね。せっかく君と"仲良く"なったというのに、それが現実では無いだなんて」

それにこの世界は醜くもあって同時に美しい、と骸は続けた。

「醜い?美しい?対になる言葉は一つのモノに一度に宿る事は出来ないんだよ」

「そうでもありませんよ。醜いモノを美しいと評価する人がいるくらいですから」

「―…あーもう、だから嫌なんだ」

「?」

「現実は理屈ばかりだ、何がなんだかわからない。幻ならきっとそんな事無いはずだよ。幻には幻しかないから理屈も全部幻だから、幻しか…―」

陽が傾き、夕日の暖かな光が少年の座っているソファーに当たった。曖昧な眩しさに微かに双眸を綴じると、コンクリートと靴が合わさる音が、窓際からこちらに近付いて来た。
足音の主が夕日を遮り、少年の身体に影を落とす。
双眸を開けようとした刹那、首筋に湿りを帯びた生々しい感覚を覚える。

「―…何してるの」

「幻よりも現実がどれ程素晴らしいか、わからせてあげようと思いまして」

「はぁ…」

溜め息をついて、上から覆いかぶさるように首筋にキスを堕とす骸の身体に、雲雀の白く細い腕が絡む。

「…ん…」

啄む様なキスは、やがて下へとずれていき、シャツのボタンを指で器用に外すと、を胸の蕾を強く吸い上げた。

「ぁ…ッ……ん!」

ビクンとのけ反る雲雀の身体を引き寄せ、愛撫の跡を幾つも残していく。消えない様に、強く吸い上げ朱い華を咲かせては、なにもかもに敏感に反応する彼に向けて至福の笑みを零す。
暫く雲雀の身体を舐め回す様に触れていた手を、彼の最も敏感な場所に伸ばす。

「や、め…ダメ!」

既に自らを主張し始めたそれを触ろうとした骸の手首を握る。
初めてなわけでは無い。骸に触れられるのは…しかし、雲雀はそこに触れられる事にだけはいまだ抵抗がある。
自らも、日常生活の中以外ではあまり触れないそこに、彼の指が絡み付く感覚といったら、快感…などとは程遠い。―…どこか敗北感を感じるのだ、どこまでもこの男に堕とされていく自分が。

「放して…?」

耳元で、濡れた声でそう囁かれれば、彼は抗いきれない。骸の手首をゆっくりと放し、乱れた自分のシャツを握りしめる。

「ん…ゃ…ぁ」

剃り勃つモノを指で包み込み、上下に動かせば、先程よりもさらに甘い…艶やかな声が漏れる。

「雲雀…気持ちいい?」

「ッ…ぅん…ゃ、もう…」

黒いソファーに横たわる雲雀の白い身体、薄桃色に染まった頬と、朱い跡だけが今骸が見る景色に色をそえている。

「これが…」

「……?」

「幻だったら…―。クフフ、そろそろ、イきますか?」

口から淫らに垂れた唾液を、舌で舐め取りながら、片手では胸の蕾を…右手では彼のモノを激しく擦る。
ぬらぬらと幹から垂れる白濁が指と絡み、なんとも卑猥な音をたてながら雲雀を絶頂へと導く。

「ぅあ…ん、あッや…ぁ…ぁぁあッ…―!」





橙色に染まっていた室内も、ただ外の月明かりに照らされるだけになってしまった。

「―…ふぁぁあ」

可愛いげな欠伸をして、雲雀は目を覚ました。
先程骸の手で中で果ててからも、暫く情事は続いたのだが、その後眠りについてからそう時間は経っていないはずなのに、だいぶと眠った気がする。

「お目覚めですか」

「ん」

寝起き独特の不機嫌な眼差しで骸を見ると、彼は何か言いたげな顔付きをしていた。そこで思い出す…―。

「さっき何言おうとしたの?」

「さっき?」

「幻だったら、とか何か」

「あぁ…あれは、ただ、幻だったらこうして触れる事も、熱を感じる事も出来ない。だから、現実がいいでしょう?って…かっこよく終わるつもりが、君がイきたがったものですから言うの止めただけです」

「…イきたがって無い!」

「僕にはそう見えましたけど」

「き、君の目がおかしいんじゃないの」

少し頬を赤らめながら言い返す雲雀に、骸は笑顔を返す。

「クフフ…可愛らしい人ですねえ、君は」

嗚呼、愛おしい。
幻などでは無い様にと、願わずにはいられない…。





―…君を感じた現実は、醜くも美しい。










2009.09.08 Airu


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