小説

嫌い嫌いも好きのうち
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人は人を好きになる。好き…というのは個人が決める事だが、好きの定理は他人が決めた事。おかしくないかい?定理に基づいて好きだと判断するならそれは結局他人が決めた事になるはずだ。
だから僕は、好きの定理を信じない。だから僕は、コイツを好きじゃない。そう思う事にした。

「へぇ…君がそんなに物事を深く考えられる人だとは思いませんでしたよ」

「という事だから、僕は君が好きなわけじゃない。近寄らないでくれる?欝陶しいんだけど」

「クフフフ…定理は他人が決めた事、その定理が気に入らなければ自分なりの定理を作ればいいじゃないですか。愛の形は人それぞれ…―」

殺したい程愛してる。というのは「殺したい」という感情を「好き」の定理にしたのが原因、もしくはその逆。「好き」という感情を「殺したい」の定理にしたからです。だから君の定理は「嫌い」にすればいい。「嫌い」という感情を「好き」の定理に。
そう長々と持論を語り終えると、軽く息をついて雲雀を見つめた。
その瞳は、まるでなにもかも見透かしているかの様な光を宿し、静かに揺らいでいる。
そんな瞳に、苛立ちを覚える。

「それワケわかんないよ、骸」

「要するに、どちらにせよ君は僕の事を愛しているんですよ。さあ受け止めて下さい!真実の思いを…―僕の愛を!!」

「ッ気持ち悪い…!」

ドンッ…鈍い音がしたかと思うと、骸がソファーから半身を乗り出す形で倒れていた。どうやら雲雀が彼の顔面に素晴らしい一撃をくらわせたらしい。それは骸の鼻から滴る血が何も言わずとも物語っている。

「痛いですよ、何するんですか…もう」

わざとらしい仕種で頬を摩ると、目に涙を浮かべる。わかってる、嘘泣きだ。

「本当に…キライ」

例えば君が僕を好きだと言っても、僕は君を好きだなんて言ってやらない。





だって、嫌い嫌いも好きのうち。









2009.09.07 Airu


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