小説

愛したい狼、愛されたい羊
1ページ/1ページ

先程から不可解な事がある。それは到底僕には理解出来ない事で何故なら…あぁ、つまりはそう、獰猛な狼の前で自ら血を流してその食欲を高ぶらせる様なものだ。

「君、噛み殺されたいの」

校内の一室、丁寧に黒で塗装されたソファーが、二つ置いてある。その一つには黒髪の、いたって不機嫌な少年が座っていた。もう一つには、そんな少年の思惑にも気付かずにふんわりとした茶色い髪を垂らして、すやすやと眠っている少年。

…可愛い。

なんて思ったのは一種の気の迷いで、腹立たしいやら何やら、自分自身訳がわからない。

「……ん?」

やっと目を覚ましたのか、と心の中で安堵の息をつく。これで噛み殺さずにすむ、ん?僕はコイツを噛み殺したいんじゃなかったのか?うん、噛み殺したく無いのか。それはきっと深層意識と言う奴で、人の一番素直な部分。なら今のこの感情も、理解出来なくはない。

「沢田綱吉…何でこんな所で眠っているんだい」

「…ぇ…ひ、雲雀さん!?な、俺リボーンに…え?」

「赤ん坊がどうかしたの?…僕に会いに来たんだろう?素直になればいいのに」

「…は?え、雲雀さん何言って…」

「噛み殺されたくないよねぇ?僕に愛されたいんでしょ、ね」

笑顔で告げる少年に、綱吉は全く別の人物を見ている様な錯覚に陥る。それもそうだろう、普段この少年は誰とも群れず、近寄る者はフルボッコという何ともバイオレンスな人間だったからだ。それが今自分に近寄り「愛されたいんでしょ」なんて囁くものだから…これはこれで恐怖だ。

「あの…ッ失礼します!」

妙に朱く染まった顔を隠すようにソファーから飛び降り部屋を出る。

「またおいで」

帰り際に聞こえた声は、どこか少し残念そうな声で、今日みたいな変な雲雀さんにならまた会ってもいいけど…だなんて思う自分がいたりする。

それが彼等の深層意識。
互いに奥底で惹かれ合う、無意識のうちに混ざり合う珈琲とミルクの様。





ほら僕等は心の深い場所に、全くの別人を飼っている。






本当は羊を愛したい狼と、そんな狼に愛されたい羊。










2009.08.29 Airu


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ