その他

□蝶
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白い髪が風に舞うと、白銀の絹糸のようで好きだった。
今は昔の話しに過ぎないけれど、それは幼い恋心。

嫌な事があると行く、秘密の場所があった。
でも、そこは私だけの秘密の場所では無くて。

大きな木の苔むした洞に座り、葉の生い茂る枝々の合間から広がる空を眺める。

「帰蝶。こんな所に居たのですか?」

(…。)

差し込む人影と穏やかな声。
私に、この隠れ家を教えてくれた人。

「伯父上が心配していましたよ。」

(嘘よ…。あの人が心配なんてするはず無いわ…)

かぶりを振って答える私に、少し困った顔をする。

「そんな事を言わないで下さい。さあ。」

困った顔のまま笑って手を差し延べてくる。

(しょうがないわね…。)

その顔が好きだった。
誰も、誰にも見つからない隠れ家は他に幾つだってあったけど、その顔が見たくて。
困らせたかったわけでは無いけど、迎えに来て欲しくて。

あの頃の私は蝶だった。
白波の風に誘われ花に遊び、木々に戯れる。
けして戻る事の無い日々を思い返し、木漏れ日の射す洞の深緑の空気を吸う。

今は昔。
私は蝶だった。


2009.10.17


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