□序章
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薄暗い洞窟内に青年の歌が響く。

それは反響する音に埋もれることなく、むしろその音が彼の歌声の美しさを際立たせた。

何度聴いても心に響く親友の歌声。
初めて出会った時は、その歌声に惹かれて思わず声を掛けてしまった。
それがきっかけでこんな関係にまでなろうとは思わなかったが。

(……こいつの歌声には、まるで…魔力があるようだ)

――やがて、旋律は残響を残しつつピタリと止んだ。

「どうだった? 僕の新曲の感想は。
良かったでしょ。良かったよね。うん、良かったに決まってる。
だって聞き惚れてたもんね、目まで綴じちゃって」

「単に耳障りで寝ていたとは考えないのか……?」

「耳障りだったら普通は耳を塞ぐものだよ?
寝ちゃったと言うなら……それほど心地良かったってことだよね」

「――くっ……。寝てねぇよ。
あーそうだよ聞き惚れてたんだよ!!」

黒髪の青年はヤククソ気味に言いながら、髪をワシャワシャと掻いた。

その様子を見て赤髪の青年は微笑んだ。

そして、唐突に「んーっ」と声を出しながら伸びをする。

「あーあ、魔力込めて歌ったから疲れちゃった。
ねぇ、早く船に戻ろ」

「って…本当に込もってたのかよ!?」

「? 何のこと? でないと“鍵”かけられないじゃん」

黒髪の青年が自分の感じたままの通りだと知り驚くのに対し、赤髪の青年はキョトンとしながら返した。

黒髪の青年は、またひとつ溜め息を吐く。

「“鍵”……ね。
じゃあ、お前がそれを担うと言うのなら、“地図”の方は俺に任せてもらおう」

黒髪の青年は、まるで自分に任せれば心配は要らないとでも言うような、自信に満ちた声で言った。

それを見た赤髪の青年は、一瞬だけ無邪気で嬉しそうな表情を見せるがすぐに打ち消し、いつもの人をからかう様な笑みを浮かべる。

「もちろん君に任せようと思ってたから、そう言って貰えて嬉しいよ。
――子孫絶やさないよーに頑張ろうね。
永遠の友情がパァになっちゃうから」

「……はぁ。お前、それなんとなくセクハラ発言に聞こえるぞ。
お前が言うと」

「えー? セクハラって何のことー??」

「…………船、戻るか」

そう言い残し、黒髪の青年は赤髪の青年をその場に残し、さっさと海賊の旗印がある船に向かって歩きだしたのだった。
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