シルシ

□シルシ 1
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彼は颯爽と自転車を走らせていた。
よく見ると端正な顔立ちをしている。
柔らかそうな黒髪が風になびいていた。
キキーッ
どうやら目的地に着いた様だ。
彼の目的地は公園だった。そこには日本では珍しいバスケットゴールがあった。
彼は自転車を降り、おもむろにカゴに入れてあったバスケットボールを取り出した。

ダムダムダム……
そんな音が公園に響く。
黙々とプレイしていた彼だったが

「おおーっ!ゴールがある!珍しいー」

そんな大声が聞こえてきた
ふと彼が声の方を見ると、小柄で美人というより可愛らしいという表現のぴったりな顔立ちの少女が公園の入口に立っていた。

蜂蜜色の髪は頭の上でまとめられている。
そして耳にはパールのピアスが春の日差しを浴びてキラリと光っていた。
その少女の大きな瞳の先には彼ではなくバスケットゴールを捉えていた

彼はそんな彼女を見やり、意識を練習に戻そうとするが

「ねー」

少女が近付きながら話かけてきた
それを彼は無視しようとするも

「アンタ!聞こえてんでしょ?あのさー悪いんだけど、そのボール貸してくんない?」

いきなりの台詞に彼は驚きピタリと動きを止めた
そして彼は少女を見下ろす様にじっと見る

そんな彼の態度に業を煮やしたのか

「貸せっていってんだよ!」
と怒鳴った

…とても人にものを頼む態度ではない

「ヤダ」
「貸せ!」
「ムリ」

暫く二人の睨み合いが続く…

すると少女が
「ふーっアンタも大概頑固だねー」と呟いた
が、その時彼の手にあったはずのボールが、いつの間にか少女の手の中にあった
「ふふーん」

少女は自慢気にボールを持ち彼を見た

最早この少女に何を言っても無駄だと思った彼は近くにあったベンチに腰をかけた

「あー久々だな…」
少女はじっとボールを見てそう言った。そしてボールを軽くバウンドさせる…少女の表情が真剣なものへと変わった。ゴールからかなり離れた所からシュートモーションに入るとその場からボールを放った。

シュパッ
ボールはリングにかする事なく吸い込まれる様に入った

「うーん…やっぱいいね…」
少女は落ちたボールを拾いながら呟き

「あんがとね」と言い彼にボールをパスで返した。

そして何事もなかった様に「じゃっ!」と言い公園を出て行った

少女からボールを受け取った彼はベンチから立ち上がると練習を再開させた


この春の日の出来事が二人の人生を大きく変える事になる…

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