Dream ]U

□それを愛とは知らずに
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切っ掛けは些細な事だった。
そう、まるで部屋の隅にある少し掃ききれなかった塵だとか。
軽く引っ掛かれた爪痕だとか。
恐らくそんなものだった。
だがそれはまるで俺の中で、激しく瞬く閃光のように一気に駆け抜けていく。
その幾年月。
どうにもこうにも頭で理解出来ないまま、己に割り当てた決算書と向き合い算盤を弾いてはきたが。
徹夜での決算も理由としてはある。
が、最早これがなければ俺ではないという、所謂証的な存在で何時までも黒く長く居座る其れは。
恐らく遠の昔から消える気はなかったのだ。
俺が頭を悩ませている限り、自分の存在は確立されていると。
そうした毎日に名を呼ばれて振り向けば、見慣れた縄標が目の前に迫り身を翻す。
奴は本を返せと笑みを浮かべながら、俺を始終追い回すのだ。
明日には、いや明後日には。
そう期限を伸ばし続けて、もう幾日になるのだろう。
相変わらず奴の笑みは消えず、俺は冷や汗ばかりかいている。
お陰で同室の仙蔵からは、キモンジなどというあだ名を付けられてしまった。

伸ばす理由はある。
最高学年として、そこいらの城忍とも負けず劣らずと言われている六学年。
鍛練を積み、若輩者ではあるがそれなりに忍びとしての志と精神を養ったつもりでもいた。
だが悲しいかな。
曲者の初動や心内を読めたとしても、俺自身の心内が読めない。
それをあれやこれやと考えている内に、書物に目を通す暇がなくなっていた。



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