OTHERS
□Drenched With Rain
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* * * * *
『元親様‥お嬢にございます。』
「あぁ‥入れ。」
部屋に着いたお嬢は襖の外から静かに声をかける。
返事を聞くと遠慮がちに襖を開け中へ入る。
部屋の奥では元親が着替えたばかりの着物の裾を直していた。
『元親様、御苦労様でございます。』
「あぁ‥。お嬢、近う寄れ‥」
『はい‥』
嬉しそうに笑みを浮かべ彼の側へと近付く。
普段高いところで結われて居る髪は下ろされ、淡い蒼の着流しを着ている元親。
用意された布団にあぐらをかくと、お嬢に座れと促すように自分の膝を叩く。
お嬢は恥ずかしそうにうつ向きながらも、静かに元親の膝元へ座り甘えるように元親に擦り寄る。
しかし、お嬢はぴくっと体を揺らすと、驚いた顔を上げる。
『元親様‥体がこんなに冷えてしまわれて‥』
そっと元親の頬に手を当てると、冷たい頬と生乾きの髪の感触。
『髪もまだ濡れていらっしゃいます‥。』
お嬢は持っていた手拭いを広げて、元親の髪に当てると水気を拭き取っていく。
優しい妻の手に元親はふっと目を細める。
「すまないな。」
元親もお嬢も二人きりの時は城主とその妻でなく、普通の若い夫婦となる。
お互いを愛し優しい眼差しで見つめ合うその様は幸せそのものであった。
『元親様、お寒くありませんか?』
「お前が温かいから大丈夫だ。」
元親は優しく髪を拭くお嬢の肩を抱き寄せると、すっぽりと自分の腕の中に彼女を包み込む。
『元親様‥これでは髪が拭けませぬ‥』
困った様な笑顔で抱き締める元親に言うお嬢。
元親はクスクスと喉の奥で笑うお嬢の首筋へ顔を埋めたまま、更にきつく彼女を抱き締める。
『四国の鬼若子が、急に甘えたさんですね?』
「お前の前だけは、その名から解放してくれても良いだろう?」
『姫若子に逆戻でございますか?』
「お嬢‥。」
からかうような口調のお嬢に元親は顔を上げると、未だクスクスと笑う彼女の額に自分の額をこつんと預ける。
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