OTHERS

□Bloody Love
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闇が静寂の夜を包む。

頼りない三日月が雲に隠れ、かろうじて自分の足元手元が見える程度の視界のみ。


小次郎は己の屋敷で愛刀の手入れをしていた。

すぐそこに見える中庭、ふっと僅かな気配を感じて視線をあげる。


「‥お嬢。」

『小次郎?』


雲に隠れた月が、顔を出す。
うっすら明るくなり、お互いの姿が確認出来る光が空から降る。


『小次郎‥っ』


お嬢と呼ばれた女は部屋の中に居る小次郎に走り寄る。


ふわりと、血の臭いが漂った。


お嬢は小次郎に抱きつくと、ぎゅっと背中に腕を回して更に距離を詰める。

小次郎は手入れしていた刀を大事そうに自分の横に置くと、抱きついたお嬢の背中を優しく摩ってやる。


「お嬢、どうしたの?」

『小次郎‥あのね‥』


お嬢は小次郎の胸に顔を埋めたまま小さく囁く。


「いいよ、怖がらないで話してごらん?」


小次郎はいつもの優しく、狂気じみた口調でお嬢に問掛ける。
お嬢はぽつりぽつりと、小次郎にしがみついたまま話始める。


『今日、この前仕事で一緒になった人と会ったの。』

「うん。」

『それでね‥その人が小次郎の事を狂ってるって言うから、私、許せなくて‥』


そう言って、顔をゆっくりあげるお嬢。

顔面は返り血で染まっており、纏っている衣も、元の色が判別出来ない状態だった。
美しい漆黒の髪に、血の紅が染み込んでいる。


虚ろに小次郎を見つめるお嬢。
小次郎は満足そうに微笑むと、お嬢の頬に流れ落ちる、今は屍となった何処かの誰かの血液をペロリと舐める。


「そっか‥。僕の事を想ってくれたの?」

『うん。小次郎の事を何も知らない癖に‥。』


お嬢は小次郎の衣をぎゅっと握りしめて、下を向く。

小次郎はお嬢の顎を指先で持ち上げ、その魔が宿った様な瞳でお嬢の瞳を見つめる。


「何も怖がらなくて良いよ?」

『あ‥小次郎‥』

「僕の為に、可哀想なその人を斬ってくれたんでしょ?」

『ん‥そう‥。』

唇が触れそうな程、近くで話す二人。
小次郎はお嬢の返事にまた嬉しそうな笑みを浮かべる。


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