メロドラマ D

□夢の檻
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こころの底に
いつも
あなたがいた

届かなくてもいい叶わなくても

ただ想うだけで
幸せだったから

夢をみるような
そんな恋をしていた

今日は昼からお座敷の約束が入ったので、朝湯をした後、二階の支度部屋で出の誂えを整える。
湯屋は、子どもの頃から通い慣れているし、お客さんも皆楼閣で働く顔見知りばかりだから、今更誰も僕の不自然な白髪なぞ気にはしない
座敷着を着付ける為に、素肌に長襦袢を身に纏う僕を支度部屋に備え付けた姿見が映しだす
いつもながらウンザリする
気味の悪い
白い髪と薄い色の瞳
それでも仄かな雪洞の下ならば
その陰翳に縁取られた薄い灰銀は、何処か男の庇護慾をそそるようで
酔客の戯言めいた口説も甚だ一方的なものばかりだ
'まるで、処女雪を偲わせるこの白い肌――'`誰の足跡も無い、染まってない無垢な妓だねぇ`
――――
そんな筈、ないのに
バカバカしいと胸裡で反駁しながらも
いっそ媚びた清純さを装い頬を赤らめてみせれば

酒の酔い、万華鏡の色硝子が回転する様な賑々しいお座付きの華やかさ
質感のある綴れ帯で鋼の如く硬く締め上げた座敷着も
全てが己を鎧う
僕を守る
これらがあれば
大丈夫なのに

素に戻ってしまう

白けたまひるの明るさが
僕は 嫌いだ

肌着と重ねた長襦袢の襟づくろいをしてから紐を締め始める。屈んで用意された着物をとり、さっと広げると胴裏の紅絹と裾まわしの藤色が波打った。
両手で襟先を持ち下前を左脇に、上前を右脇に掻き合わせると腰から下の曲線に絹はすなおな丸みを帯びて従う。
衣紋も円く抜くと、華やぎ、肢体も華奢に見えるが、阿娜っぽい

しかし、襟はいつも癇症な程胸元まで締め上げる合わせるのが白芸者の心意気
つやのある黒の布地に、腰から下は片方に白い柳の枝が垂れ、金糸の橋にかかっている着物を着付け、島田に結った頭には、べっこうの櫛と珊瑚の簪をつける。

ツンと左に妻を取ると、自然と気力も充実してくる
戦さに出る、そんな感じで

今日の出来を子細に点検していると、階下より、おかあさんの声がした。
来客だろうか、とお座敷の時間があるので、今下に降りるかどうか、とタイミングを測っていたが

声の主はラビだった
いつも、江戸屋の二階座敷でばかり会っているのに、昼間ここに来るのは滅多にない事だった。
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