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□【Bijou】シュナイゼル×ロイド
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白く光る画面に、ロイドは無心で数値を打ち込み続けていた。

どれくらいそうしているだろう。四角く切り取られた窓から見える景色は、既に真っ黒なものだったから、今が夜であるのは間違いない。
ただ、それが何日目の夜なのかは覚えていなかった。

しかし、夢中で数字の羅列を追い、ひたすらに最後の数値を求めて作業する・・・それはロイドにとって苦痛ではなく、むしろ喜びであったから、今が何日目の夜であっても構わないと思う。

二十畳ほどもある部屋には、ロイドしかいない。

それは今が深夜だからという理由だけでなく、そもそもこの部屋自体がロイドに与えられた個室であるからだ。
研究室から引き抜かれる際に、研究における最高の環境を、と求めた結果の一つである。

常に回りに人がいる状況は、あまり好きではない。
助手や秘書がいるより、一人で作業した方がずっと研究がはかどるし、誰かに話しかけられたり、それに答えたりということは、ロイドにとって時間の浪費にしか思えない。

こうやって個室を与えられて、わずらわしい人間関係から切り離された状態で研究に没頭できることは、ロイドにとってまさに最高の環境なのだ。

カタカタと、素晴らしい早さでキーボードを打ちながら、コーヒーに手を伸ばす。

そういえば、と思う。

コーヒー以外のものを、最後に口にしたのは何時だっただろう?
誰かが報告書を上げに来た時、無理矢理手にパンを押しつけられて、それを口にした覚えはある。
昨日だったか、一昨日だったか。

あまり空腹を感じる体質ではないのか、そもそもその行動自体に興味がないのか、おそらくそのどちらも原因なのだろうが、ロイドは食事を口にする回数が極端に少なかった。
そうやって誰かに強制的に食べさせられなければ、何日もまともな食事をしない。

勿論、何も口にしなければ思考力も鈍るので、一応最低限必要と思われるビタミンやミネラルは取る。
それも、高カロリーゼリーで錠剤のものを流し込むだけなのだが。

他に口にするものは、砂糖とミルクをたっぷり入れたコーヒーだけ。
しかし、それが常だったので、いくら周りに言われようと、改善する気は全くなかった。

健康とやらに気を使って長生きした所で、一体何だというのか?
そんなことより、今、目の前にあるものを形にすることこそが、自分が生きている意味なのに。

ぬるくなったコーヒーを入れ直そうと立ち上がると、ふいに来客を告げるベルが部屋に響いた。
電子音ではない、本物のベルの音だ。

この部屋の持ち主、つまりロイドが現在所属する研究室の最高責任者が、電子音を好まないのだという。
そんな理由で研究所を丸ごとレトロチックな造りに変えてしまうあたり、本当に権力者の思考というものは理解できないとロイドは思う。

しかし、おそらく深夜だと思われる時間帯に、一体誰がこの部屋を訪れるというのだろう。
他の研究員は、そもそもこの部屋自体にあまり近寄らないし、それが夜ともなれば尚更だ。

訝しく思いながら、ここだけはレトロではないインターホンに返事をする。

「どちら様〜」

「私だよ」

「私って誰ですかぁ〜」

間延びした問いに、相手はいささか面食らったようだった。
しばしの沈黙の後、クスクスと笑い声がする。

「これは失礼、シュナイゼル・エル・ブリタニアだが」

今度はロイドが驚く番だった。
何故ここに彼がいるのだろう。

宰相の地位に就いたシュナイゼルは、常に政務に追われていた。
国を離れることも多かったし、この研究室に最後にやってきたのだって、もう随分と前のことだ。

無言でドアを開けると、昼でも夜でも変わらない笑顔で、この機関の最高責任者が立っていた。

「これはこれは・・・何か御用ですか」

彼の姿を見ても、ロイドの態度に変化はない。
シュナイゼルに声をかけられた、目を合わせられたという、それだけのことで平身低頭する大抵の人間とは、全く異なる反応だ。

しかし、シュナイゼルはそれを気にする様子もない。

「新しいナイトメア、だいぶ軌道に乗ったそうじゃないか。是非とも成果を聞かせてもらいたくてね」

胡乱な表情でそれを聞いていたロイドは、しぶしぶと言った感じで部屋の中へとシュナイゼルと導く。

「まだまだ実動段階までは遠いですよ。何の成果もお聞かせできないと思いますけどぉ」

いかにも面倒だというようにそう答えると、シュナイゼルはにこりと笑う。

「現段階までの話でいいよ」

その言葉に、ロイドはうんざりとため息を落とした。





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