彩雲国物語 (BL)← 5. 7

□【Tactics】晏樹×皇毅
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コン、と一つ扉を叩く音。
続いて、コンコンコンと三つ。
少し間を空けて、コンと。

合図を確かめると、葵皇毅は自室の扉を開けた。

細い隙間から、音もなく入る人影。
扉は後ろ手に閉められて。

「やぁ、皇毅」

にこり、と笑う。
そこにあるのは屈託のない笑顔。
まるで幼児のような。

しかし、それはあくまで表面だけということを皇毅は理解している。
彼・・・凌晏樹は、常に微笑を湛えてはいるが、麗しい相貌とは裏腹にその性格は酷く捻れているのだ。

「遅くなってゴメンね。待ったでしょ?」

晏樹はそっと背中から抱き締める。
皇毅は無表情のままだったが、お構いなしに腕に力を込めた。

「会いたかったよ、皇毅」

耳元で囁けば、何も映さない表情とは裏腹に、小さく身体が震えた。

「可愛い」

ちゅ、と首筋に口付ける。
皇毅はそれを避けるでもなく、嫌がるでもなく、ただ淡々と受け止める。

「晏樹」

「ん?なぁに?」

「さっさと済ませろ」

きょとん、と晏樹の顔が笑みを忘れる。
しかし、すぐに目を細めてさも嬉しそうに笑った。

「ふふ、そうだね、ごめんね。こういうの嫌いなんだよね」

――愛を囁かれるのも、優しく抱き締められるのも。

晏樹は望み通りにとばかり、皇毅の服を一枚、また一枚と剥ぎ取っていく。
単衣だけを残して全てを取り去ると、そっと寝台に押し倒した。

相変わらず、皇毅の表情には何の感情も浮かんでいない。
ただ、目の前にある晏樹の顔を見返すだけだ。

晏樹もまた、薄らと笑みを浮かべたまま皇毅の顔を見つめている。

絡み合う視線には、しかしそんな状態にも関わらず甘さはない。
ひんやりと、どこか冷たい互いの視線。

まるで、相手を憐れむような。

「皇毅」

そっと囁くと、晏樹の端整な顔が迫ってくる。
皇毅は瞬きさえせず、それを受け止めた。

そっと押し当てられる唇。
そうするのが当たり前というように、晏樹の舌が唇を割る。

あまり体温を感じさせない舌が、縦横無尽に口内を愛撫する。
舌を絡ませ、互いの唾液を嚥下し、唇に吸い付く。

しかし、そんな一連の動作もどこか演技じみていて。
まるで、予め決められていた手順を踏んでいるだけ、とでもいうように。

そっと離れていく唇を、皇毅は変わらぬ表情で見つめる。

「例の件だが」

自分の衣を脱ぎながら、皇毅の滑らかな肌を撫でていた晏樹は、その言葉に視線を上げる。

「1週間後だ」

短く告げられた言葉に、晏樹は少しだけ驚いた顔をする。

「随分早いね」

しかし、その言葉に返る答えはない。

「分かったよ。じゃ1週間、彼の行動を逐一報告させてもらうよ」

にっこりと笑う。

こうした取引に、余計な言葉はいらないと皇毅は思っているようだった。
それが晏樹には面白くない。

だからこそ、いつからかこうして見返りを求めるようになったのだが。

しかし、身体を与えるようになっても皇毅の態度は変わらなかった。
唇を重ねて身体を開くことはしても、自分に縋ったり、甘い睦言を囁いたりなどは決してしない。

それが皇毅らしいと言えばそうなのだが。

晏樹は皇毅の頬を撫で上げる。
輪郭を辿り、顎から首筋、胸へと指先滑らせ、やがて下腹部へと辿り着く。

緩く立ち上がりかけたそこを、そのまま包み込んでやれば、皇毅の身体がピクリと跳ねた。

「もっと甘えてくれてもいいのに・・・ね?」

上目遣いに見れば、皇毅は嫌なものでも見てしまったかのように眉を寄せる。

「お前の戯言は聞きたくない。早くやれ」

「ふふ、皇毅は即物的だなぁ。こういうのは、ほら、雰囲気ってものが大切なんじゃない」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

最早、言葉を返す労力さえ時間の無駄だと言わんばかりに、皇毅は晏樹を睨みつける。

晏樹は降参と両手を挙げると、それ以上の言葉は口に乗せずに皇毅の肌に吸い付いた。






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