SLAMDUNK(ログ)
□勘違いから始まった恋
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最初に言っておくけれど、僕は流川先輩が思ってる程素直で礼儀正しい後輩なんかじゃない。
人並みに、いやそれ以上にナメた奴だと思う。
「・・・お前、二重人格?」
久しぶりに公園に行った僕に、流川先輩が言った言葉がこれだ。
「え?・・・ちがうと、思いますけど」
ある意味、僕は二重人格かもしれない。先生や先輩の前と友達や家族の前とでは態度がまるっきり違う。中1にして世渡りの方法が分かってるかわいげの無い奴なのだ。
だけど、流川先輩が言ってる意味はちょっと違うようで。
本気で心配そうな表情をする先輩を見て、僕は思った。
この人、噂以上に鈍い、いや天然というやつですか?
本当に、僕と姉ちゃんを同一人物だと思ってる?そして流川先輩は、そんな僕が本当に何かの病気じゃないかと心配しているようで、それが僕のいたずら心に火を付けた。
ちゃんと訂正しておけと言った姉ちゃんの言葉は聞かなかったことにしよう。面白そうだから。
それに、そんなに頻繁に流川先輩と姉ちゃんが会うなんてこともないだろう、なんて思ってたのが間違いだったんだ。
「今度の試合、いつなんですか?」
「来週の土曜、海南と」
「いいなー。行きてーなー」
「お前、そう言っててこの前も来てたじゃねぇか」
そう言って、先輩はスリーポイントの位置からシュートを放った。
綺麗なフォームだ。どうやったらこんなに凄いプレーができるんだろう。
僕は高校生になった流川先輩の試合をまだ見たことがない。
小学生だったとき、富中時代の流川先輩の試合を見たっきりだ。でもそのプレイのあまりの凄さに、僕は進学予定だった私立を蹴って富中へ進学することを決めた。先輩はもちろんいないのに。流川先輩が通っていた中学で、いつか同じように凄いプレイヤーになりたい。そう思いながら練習してきた。
そして、思いがけず憧れの流川先輩と親しくなれた。信じられないことだった。
そんな流川先輩に僕はなんてことしてるんだ。
でも、この時はそれほど問題になると思わなかった。ちょっとしたいたずら心。僕だろうが姉ちゃんだろうが関係ない。それが大きな問題になるわけがない。
ホントにホントにそう思ってたんだ。
次の土曜日。
もちろん僕は試合を見に行かなかった。練習があったからだ。
姉ちゃんはもの凄く不機嫌そうに帰ってきた。試合、負けたらしい。でも不機嫌の原因はそれだけじゃないようで。
「今日、会ったよ、流川に」
「え!?」
「あんた、まだ言ってないでしょ」
また何かあったんだろうか?っていうよりまた流川先輩は姉ちゃんを僕だと思ったのか?いい加減気づけよ。全然違うじゃん、性別が。
「なんか、あったの?」
ヤバイ、バレたって思ったけど、どうも違うみたい。
「別に。何かあったわけじゃないけど」
「けど」
「変な顔してたよ。あの人」
変な顔、ですか?
「とにかく、明日会って正直に言いなよ。それでもし嫌われても自業自得ってやつだよ」
なんだよなんだよ、何したんだ、姉ちゃん。
次の日、恐る恐る公園に行くと、いつもの通り流川先輩は練習していた。
なんだ、別に変わりないじゃん。
とホッとしたのもつかの間。
僕がスポーツバッグからタオルを取りだそうとしてたら、いつの間にか無言の流川先輩が背後にいた。
僕は気づかなかった。
いつもと変わりない無口な流川先輩だったけど、その無口な理由がが普段と全く違っていたということを。
見上げる格好となった僕は、内心ビクビクだったものの気づかれないよう平静を装った。
「な、なんですか?」
流川先輩の目が正直怖かった。
「お前・・・」
「はい?」
「明日から此処に来るな」
「え・・・」
なにがなんだか分からなかったけど、明らかに拒否されたってことは理解できた。
僕は、取り返しの付かないことをしでかしてしまったみたいだ。
ああ、今更後悔しても仕方がないけれど。
重い足を引きずりながら、公園を後にする。そのとき流川先輩がいったい何を考えていたのか、知るわけも無く・・・。
流川視点へ続く