SLAMDUNK(ログ)
□夏のはじまり
1ページ/1ページ
待ち合わせの公園に行くと、珍しく楓が先に来ていた。
7時前だというのに、辺りは未だにうす暗い程度で。
この時間になりようやく涼しくなってきた空気を感じるにつけ、夏が来たのだなと実感する。
ベンチの前に立つ私。座ったままこちらを見上げる楓は無防備で、失礼だけれども小動物のようにかわいらしい。
「珍しいね。楓が先に来てるなんて」
「試合、早く終わった」
「うん」
「だから、名前の試合も見に行った」
「え…、そうなの?」
事も無げに頷く楓を見下ろしながら、今日合った出来事を振り返る。
あの会場のどこかに楓がいて、私を見ていたという事実は、かなり衝撃的だ。
「…全部、見てたの?」
「ん」
「そっか…」
ならば、話は早い。
ドスンと楓の横に腰を下ろしピタリと隣にくっついて座ると、大きな手のひらが私の頭を包み込み、ゆっくりと撫でた。
「ヨシヨシ…」
楓なりに慰めてくれてるつもりなのだろう。少し笑ってしまいそうになったけれど、ここは素直に甘えさせて頂こう。
「負けちゃった」
「ん、知ってる」
インターハイ、それなりに目指してたんだけど。世の中そんなに甘くはない、ということを身にしみて感じた今日この日。
まだまだ夏は始まったばかりだというのに、既に少し色褪せて見えてしまう。
「俺が連れてってやる」
慰めの言葉なのか。
私が成し得ない事を簡単に言い放つ隣の男の自信に満ちた表情が、誇らしく思い、憎らしくも思う、今は。
けれど、眩しい。
この男はきっと暫くの後、本当にそれを実現してしまうのだろうから。
そして彼の最も近くでその喜びを共感できる私のこの夏は、なんて贅沢なものなのだろう。
「泣いても、いっけど…」
「うん、じゃあ泣く」
自然と涙は流れ出す。
楓は何も言わず、ただぎこちない手付きで私の頭を撫でていた。
楓のいる湘北がインターハイ出場を決めるのは、それからしばらくの事…。