■幼馴染だってば!■
□変化した“気持ち”
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((…結婚とか…面倒くさいなぁ…))
正直、母親から「あんたはいつ結婚するの?」なんて話題を出される度にいつも思っていたのはこの感情に尽きる。
今の実家で過ごす独身生活はあまりにも快適過ぎて、この生活を手放す事を考えたくないのが本音だ。
『…まぁ……その内…?』
と、いつもゆるりゆるりと逃げ回っていたのだが、先日久しぶりに顔を出した繋心のお店で状況は一変した…。
―――……
あの日、音を立てないよう気配を消してそろ〜りと帰宅した訳だが、自室へ逃げ込もうとした私は母に捕まった。
「さっき、繋心ちゃんとこのお母さんからお電話貰ってね、私も!花子は繋心ちゃんと結婚したら良いと思うのよ!!」
『……はぁ…』
やはりというか何というか…繋心とこのおばちゃんの行動の早さに思わず感心してしまった…。
あの後、やっぱり速攻でうちの母に電話を寄越していたのだな…と、余りにも予想と違わぬ事態に溜息を通り越して頭痛すら起きてくる…。
「だって、繋心ちゃん優しいし!バレーしている時はとてもカッコいいじゃない!もちろん普段も素敵だし!きちんと働いてるし!なんか最近は高校のバレー部のコーチも始めたみたいじゃない、本当に面倒見も良いのよね、繋心ちゃん!きっと良いお父さんになるわよ!」
お決まりのノンブレス。
うちの母親といい、繋心のおばちゃんといい…凄い肺活量に思わず脱帽。
そして、あれやこれやと私の目の前で、先程まで会話をしていた幼馴染の良いところをつらつらと奏でる母親の言葉は、さほど間違っているわけでも無いが…正直娘を嫁に出したいが為に唱えている呪文のようにも聞こえてくるのである。
何という摩訶不思議現象。
『…繋心の事、そういう対象で見た事ないから』
小さく溜息を吐いてそう返し、私は今度こそ自室という安息の地へ向かおうとしたのだが、敵である母はまだまだ攻撃の手を緩める気は無いらしい。
「えー?お母さんは繋心ちゃんの隣に立つ花子の姿が見たいなぁー?恋愛対象として見れない?大丈夫よ!あんなに素敵な繋心ちゃんだもの!すぐにそういう対象に見れるようになるから!」
だからちょっと考えてみない?なんてニッコリ笑う母親。
…手強すぎる…。
『…無理なもんは無理だってばー…』
私は母に聞こえるよう大げさな溜息を吐いて台所へと足を向けた。
そんなにたくさんの言葉を発した訳でも無いのに、何故だか無性に喉を潤したい気分になったのである。
まっすぐに冷蔵庫へ向かい扉を開けて、中からペットボトルに入ったお水を出して、一気にそれを自分の口内へと傾けた。