■近くて遠くて■
□忘れ物
1ページ/2ページ
「じゃあ行くわー」
『気をつけてね』
「…行ってらっしゃいのチューは?」
『こいつとしとけ!』
そう言いながら,下駄箱にのっている招き猫を,勢いよく健司の顔に押し付ける。
ぶっ!という声と,ゴチンという音が聞えた気がしたが,きっと気のせい……。
「今日も部活で遅くなるから」
『はいはい,私もどっちみち会議あるし』
じゃあなー!と手を振りながら出て行く健司に,私も軽く手を振る。
さて,後片付けして…と居間に戻ると,朝お弁当を置いた所に,変わらずお弁当が置いてある…。
『……バカ…』
あれ程楽しみにしていた唐揚げが,今日は5つも入っているのに…。
…残念でした,健司くん…。
忘れていったお弁当…代わりに食べてしまおうかな…とか考えていると,
〜♪
携帯が着信を告げる。
この着信音は…,
ピッ…
『もしもし…』
「俺の唐揚げーーーー!!!」
『…うるさい…』
携帯を耳から遠ざける。
電話の向こう側では,大声を出し過ぎた健司がむせていた…。