歌モチーフ
□ダイヤモンドダスト/小野大輔
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「──古泉」
心配そうに僕の顔を覗き込む彼が目の前に見えた。
言葉通り目の前、だ。
「あの……顔、近いです」
僕がケロッとして言ったのが何か癪に障ったのか、拗ねたように頬を膨らませ、
「心配かけんな」
と僕の髪を撫でた。
「ええと……。心配かけてしまったんですね、すみません」
「そりゃ3日も寝てたら誰だって心配する」
ん……? 今、3日って言いました?
「言った」
「すみません」
さすがに3日は長すぎだろう。どれだけ寝てたんだ僕は。
「でもまあ……最後だし、許してやる」
ぱすぱすと頭を撫でる彼の手はとても大きく、頼もしく感じた。
「最後……、なんですね」
「今更怖くなったか?」
「そんなわけないでしょう? ……それともあなたは嫌になりましたか? 僕なんかと……」
ためらいながら口にしようとした言葉は彼によって封じられた。
「お前が好きだ。……愛してる」
深いキスの間に囁かれるのは甘い愛の言葉だけ。
「あなたを愛してます」
言うだけで、言われるだけで心が満たされていくような気がした。
こんな状況だというのに、彼も僕もかつてないほど積極的だった。
こんな状況だからなのかもしれない。
お互いを求め合い、満たし合った。
まるで今までの分を埋めるように、激しく、優しく。
肌を触れあわせながら彼を感じ、それを返すように手を強く握った。
「俺はもう心残りも後悔もない」
目が不安そうに「お前は?」と訊いている。
「もちろん僕だって後悔なんかありません」
「そうか」
心から安心したような笑顔は、初めて見るものだった。
ここに来て、彼をたくさん知った気がする。
もう戻れなんかしないけど、少しだけ……やり直せるならやり直したいと思った。
「これから……永遠を手に入れるんですよね」
確認の形をとっていても自分に言い聞かせたようにしか聞こえなかった。
「もう一回訊く。……後悔、しないな?」
彼の優しい声に、手の暖かさにぼろぼろと涙を流しながら、深くうなずいた。
彼も僕に大きくうなずいてみせてから、
「こっち来い」
強引に体を引き寄せられ、キスをされた。
塩味のする唇は僕だけのせいでもないようだ。
すぐ近くのテーブルに乗っているのは、毛布と大量の睡眠薬、それを流し込むための水が入ったコップ。それから、僕らを見守ってくれるようにと胡蝶蘭も持ってきた。
「ごめんな」
彼はそう言いながら睡眠薬を一気に口にいれた。
当然僕もそれに続く。
過剰な量の錠剤にいくらか異物感はあったものの、飲み込んでしまえばあっという間だった。
ただ異常なほどの眠気が襲ってくる。
完全に眠ってしまわないうちに、と彼が待っている毛布へ潜り込む。
「一樹」
初めて呼んでくれた僕の名前。
「愛してる……。お前を、他の誰よりも」
「あなたを愛し、てま……す」
意識がはっきりしない体で無理矢理彼に抱きついた。
「愛、して……い、るん……です……」
「あ、い……、し……」
お互いの想いは知っているのに、それでも言わずにはいられない……
最後まで互いをを感じながら僕らは眠った。
僕たちの選んだ永遠の答えがこれだった。
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