歌モチーフ

□ノスタルジア/小野大輔
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 表情だけは何とか笑いの形に保ちながら、
「親御さんも心配していますよ?」
 弱い力しかかかっていなかった袖は少し振るだけで簡単に解放された。
「また明日、学校で」
 彼の顔も見ないままに背中を向けて歩いて行った。
 僕は、彼から逃げ出していた。


 なぜ俺はあのとき愛してると言わなかったんだろう。
 今更後悔しても遅いのかもしれないけど、後悔せずにはいられない。
 痛いくらい抱きしめて、愛してるって言えばよかった。
 そうすれば俺たちはまだ一緒にいられたのだろうか。
 この気持ちに今更気づいた俺をお前は笑うだろうか。
 遅すぎると怒るだろうか。
 でも、最後に言わせてくれ。
 愛してる。


 小さく彼の名前を呟いた。
 結局最後まで呼べなかった彼の名前。
 ただ照れくさくて、少しがんばればいつでも呼べると思っていた。
 そして今、彼のいない空間に呼びかけている。
 初めて口にする、きれいで高貴な名前。
 ありふれた名前だけれど、僕にとっては特別な響きをもった名前。
 もう二度とこの名前を呼べない……
 ならば今何回呼んでも構わないだろう。
 知らぬ間に走り出していた。
 最後に大きく叫んだ声は、遠くの発車のベルによってかき消された。


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