短・中編

□最後の祈り
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 やっと病院に着いたのはすでに面会時間なんてとっくに終わっているはずの時間だったのに、入口近くにいたスーツ姿の森さんと共に古泉の病室に行くと何も文句を言われなかった。
「ここです」
 とてつもなく長いように感じた廊下を渡り、森さんが重々しい扉を開ける。
 そこには俺の知らない男性――恐らく超能力者だろう――と、ベッドに寝かされている古泉がいた。
「古泉っ!」
 ここは病院だと言うことも忘れ、大声で叫んでいた。
 そうしたら、古泉が目覚めてくれるかもしれないと思った。
 しかし運命がそんな俺を嘲笑っているかのように古泉は眠り続け、体の一部も動かさない。
 土気色をした顔も、がさがさの唇も、古泉らしくない。
「古泉は……どうなるんです?」
 もしかしたら一時的な疲労だけで、休めば治るのかもしれないと期待して言った言葉も、
「担当医師が言うには、もう一生このまま……意識が戻ることはないだろう、と……」
 弱々しい森さんの声に驚いて振り向くと、唇を引きちぎれんばかりに噛み締めているのが解った。
「森さん……」
 それでも彼女は気丈に、
「わたしは、負けません。たとえ一生古泉に付きっきりになっとしても、古泉の意識を戻してみせます。あなたにわたしと同じようにしろと無理強いはしませんし、どのような選択をしても責めません。あなたの意思で決めてください」
「俺が断るとでも思っているんですか」
 期間は森さんに比べたら少ないかもしれないけど、俺だって一年以上古泉と過ごしてきたんだし、古泉の恋人は俺だけなんだ。
 今更知らん顔なんてできるはずない。
「ありがとうございます」
 そこで森さんはしゃっきりと顔を引き締め、
「とりあえずあなたは学校には通い続けてください。昼間の看病はできる限りわたしがくるようにしますが、どうしても無理なときは他の『機関』のメンバーを来させます」
「今は僕の力を分けている状態だけど、一週間ほどで見た目は元に戻るだろうな」
 森さんの言葉を引き継いだのは古泉の隣にいた男性だ。
「ああ、言い忘れていたが僕は古泉と同じ能力を持った超能力者だよ。以後お見知りおきを」
「解りました。では俺は学級帰りと土日に来ますね」
「お願いします」
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