短・中編
□長門有希の告白
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忠告通りに寝室へ運び、手近にあった毛布を掛けてやる。
リビングに戻り、
「長門、」
言い切る前に小さな唇が言葉を紡ぎ出した。
「体内に正常量以上のウイルスを感知。それにより免疫機能が起動し、体温上昇や頭痛を招いていると思われる」
それは、風邪と解釈していいのか?
「問題ない」
とりあえずノーマルな自然現象でよかった。カマドウマやらその他は出てこないようだ。
……だよな?
「そう」
見舞いに来たはいいが、何をすればいいのだろうな。脳内俺会議をしていたところ、外部協力者が現れた。
「タオル」
無機質な声は最小限にも満たないことだけ伝え、すぐにまた黙り込んだ。タオル? 長門、必要最小限以下の説明はやめてくれ。
どこまでも白い顔が上がったかと思うと、立ち上がって風呂場の方へ歩いていった。
水を出しているどばどばという音が聞こえる。やがて水音一つ立てずにバケツ一杯の水を抱えて出てきた。重くないのか?
「大丈夫」
淡々と、まるで新聞記事を朗読しているかのような声が続ける。
「タオル」
いやだから、
「持ってきて」
具体的になった指示に少し安堵しながら、タンスを探していた。タオル、タオル……。あった。これでいいだろう。
寝室に向かうと長門が正座をして自分のハンカチで古泉の汗を拭っているところだった。
ドアは開けっ放しだったので音はしないはずだが、長門は振り向き、手よりも真っ白なタオルを受け取って冷たそうな水に手を突っ込んだ。ぴちゃぴちゃという水音だけが部屋に響く。細っこい指先に力をいれるように絞り、それ古泉の額の上に乗せた。
心なしか古泉の顔もさっきより楽そうだな。古泉よ、長門に感謝しろ。俺じゃ何も出来なかった。
「ありがとうございます……」
お、起きてたのか?
調子はどうだ?
「先ほどよりは大分楽になりました」
ふぅ、と辛そうに呼吸をする。
「脱水症状を起こしている」
あくまで二酸化炭素を吐くついでのような口調で言い、立ち上がろうとしたのだが俺が制止した。
「お前は消化が良くて栄養のつくような物を作ってくれ」
「……そう」
と大した感慨もなさげに呟いた長門だったが、もしかして俺のしようとしてること気付いてるのか?
長門はその問いには答えず、キッチンの方へ歩いていった。
気付いてるのかもな。
俺も言う気はなく、長門に倣いキッチンへ行って大きめのコップに水をなみなみと注いだ。入れすぎたかな。
「古泉、口開け」
少しびっくり眼の古泉を横目に、コップに入れた水を自分の口の中に含む。ま、解るだろ?
いつもより色が濃い気がする形の良い唇に同じところで触れ、口腔内の水を流し込む。
「ふ……」
ごくりという音が聞こえたことを合図に熱っぽい唇を離す。
「そんなことしたら……スイッチ入っちゃいますよ……?」
ばか。お前それどころじゃ無いだろうが。
「あなたにそれで喜んで頂けるなら……」
……馬鹿かお前は。
「嫌……ですか……?」
そんな心底悲しそうな顔をするな。ついでに俺の頬を触っているその手もどけろ。
……別に嫌ではないが。
「良かった」
心の底から安心したような声でにこりと微笑んだ。そうだ、その顔がお前には相応しい。
もう一度口移しで水を飲ませてみる。
「誘ってるんですか……?」
馬鹿。長門が来てることも忘れるな。
「長門さんなら、大丈夫ですよ……」
妙に瞳が潤んでいるのは熱のせいなのかどうか。この野郎、なんか可愛いじゃねぇか。
今度は水分補給ではない目的を含んだキスをする。
「んんっ……はふ」
唇を離さずにもぞもぞと暖まったベッドの中に入り、添い寝に近い格好をとる。
「ふぁぁ……」
なんだお前、なんか敏感になってないか?
「あなたの、せいっ、」
パジャマの下から直接肌に触れるとまた短い溜息のような吐息を漏らした。