短・中編

□ないしょのことば
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 と、言う訳だ。
 ちなみにふたり共クリスマス的コスプレをしている。
 古泉はトナカイのきぐるみ、有希はケープのようなボンボン付きの上着に白い肌に対比する真っ赤なキャミソールのワンピース。これの裾にも白いファーが付いている。
「似合ってるぞ」
 中途半端なおかっぱ頭を撫でようとして気がついた。ご丁寧に帽子までかぶっている。
「僕はどうです?」
 お前なんか知らん。
 ……悪かった、そんながっかりした顔をするな。似合ってるから。
「そうですか?」
 目に見えて嬉しそうな古泉。
 下から控えめに力が加えられ、
「ママも」
 そう言う有希が抱えているのは赤くてふさふさの白い毛が生えた衣服。言うまでもなくサンタだ。
「俺が着るのか?」
「そう」
「これを?」
「そう」
「いいでしょう?」
 にやにやとハンサムスマイルの古泉。
 よかねぇ。
「嫌?」
 声に色があるんだとしたら確実に無色透明の澄んだ声。
 嫌じゃないけど、さ……
「着て」
 そんな無表情に潤んだ目で見つめないでくれ。お前のその顔には弱いんだよ。
「わかったよ」
 しょうがない。有希の頼みを断ろうものなら誰かから襲撃される。
 細っこい腕から衣装を引ったくり、
「部屋借りるぞ」
 寝室で服を脱ぎ、あまりの冷気に肌を粟立てる。寒みぃ。
「どうです?」
 かちゃりとドアが開く音に驚いて身をよじると古泉がそこに立っていた。ちなみに俺は肌着1枚に下はズボンだ。
「っ、この変態っ!」
「まだ着ていなかったのですか?」
 まだって……今部屋入ったばっかりだろばか。
「手伝って差し上げます」
 問答無用で俺の服を脱がしにかかる。
「ちょっ……自分で脱ぐからっ!」
「そんなこと言わずに」
 お前の手つきはいちいちエロいんだよこの野郎。
「おや? 今はそんな時間無いように思うのですが」
 別にシたいなんて言ってねぇ。
わたわたと押し問答をしながら着替えているとあることに気がついた。ハルヒと朝比奈さんの会話がこんな感じじゃねぇか? 朝比奈さん、やっとあなたの気持ちが分かりました。
 いつもなら2分で終わる着替えが今日は10分かかった。お前のせいだ。
「いいじゃないですか」
 有希だって待ってるだろ。
「そうそう、有希にプレゼントがあるんです」
 ごそごそと戸棚をあさっている古泉だったが、やっと目当てのブツを発見したらしい。
「これです」
 大きな手に乗っているのは小箱。パンフレットを見ると可愛らしい指輪だ。光ってるのはもしかしてもしかすると何かの宝石か?
「ブルーダイヤモンドです」
 あっさりと凄いことを言いやがった。
「お金貯めるのに苦労したんですよ?」
 後で半額払う……などとは言えない。
「心配しなくても僕たちふたりからのプレゼントということにしますよ」
 悪いな。
 きゅ、と仕上げに黒ベルトを締め、サンタ服のポケットに黒い小箱をそっと滑り込ませる。
 よし、準備OK。
「お待たせ」
 扉を開けると有希が自分のバックの中に手を入れていた……気がする。
「ママ、可愛い」
 見上げる視線は無表情だが俺には充分感情が読み取れる。
 可愛いというところが気にならないでもなかったが素直に受け止めるべきだろう。
「ありがと」
 ちらりと古泉とアイコンタクトを交わし、あいつが小さく頷いたのを確認してから上着のポケットを探る。
「有希」
 小さな体がぴくりと反応し、真っ直ぐに目線が出会う。
「プレゼントだ」
 明るさの中にも深みがある青色のリボンが付いた黒い箱を差し出すとすぐには受け取らなかった。原因は両手が後ろで組まれているからだろう。
「わたしも」
 処女雪的白さの手には俺の掌の上に乗っているのと酷似している立体が置かれていた。ただしかかっているリボンの色が違う。紫と黄色だ。
「プレゼント」
 古泉が紫、俺が黄色らしい。有希からのプレゼントを受け取る代わりに青リボンの箱を渡し、
「開けてもよろしいですか?」
 若干大袈裟とも思える角度でショートヘアーが揺れる(といってもセンチ単位だ)。古泉に気を遣ってるのかもな。
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