短・中編
□猫と狼
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「あの、その頭に生えているやつ……」
やっと発した声も所々掠れている。……それが無駄に色っぽい。
「これか?」
解っていながらもちょいと手で先の方をつまみ、
「朝、起きたら生えてた」
古泉のミミも同じようにつまんでみると驚いた表情をした。
「僕にも、生えているんですね……」
ほう、と溜息に似た吐息を吐く。
ついでに言っとくと、お前は髪の色も変わってる。
「そうなんですか?」
自分の髪は見えないからな。洗面所行って確認してこい。
「ちょっと失礼します」
低血圧のせいか若干ふらふらしながらも部屋を出ていった。ズボンの後ろのところがゆさゆさと揺れていたのはきっとあいつにも尻尾が生えているからだろう。やっぱり狼なんだろうな。
「ずいぶん印象が違いますね」
早かったな。
「『機関』のお偉方に見つかったら大事です」
実に画になる仕草で前髪をはじき、唇の端を三日月形に歪める。
「それより問題なのは、あなたのこんな可愛い姿を見て我慢できるはずがないということでしょう」
な……笑顔でにじりよるな、気持ち悪い。
俺がどこへ逃げようか悩んでいるうちに色んな意味で獣化した古泉に腕を掴まれていて、これまたすぐにベッドに押し倒された。
「僕の勘では」
押さえつけた両手はそのままに、頭を俺のミミに近づけて息を吹きかけた。
「にゃ……」
「おや、もしかして猫語ですか?」
「違っ……自然になっちまうんだ!」
「猫語には変わりないでしょう?」
そりゃそうだが……
「やはり、ここにも神経は通っているようですね」
俺の話聞いてないだろ。
あとミミ元で喋るな。鳥肌が立つんだよ。
「可愛いことを言ってくださいますね」
「んにゃぁ……ば、か……」
だから喋るなって言ってんだろ。
「ではこちらの耳ならいいですか?」
そういう問題じゃ……
反論しようとした直後、ざらりとした舌を耳に感じた。ここまで狼なんだな。
「にゃぁぁ……っ」
くそ、猫語は意識すれば直ると思っていたがもともとこんな声意識して出してる訳じゃないから直らない。
それもこれも、こんなにうまい古泉のせいだ。
「お褒めにあずかり光栄です」
人の思考を覗くにゃ。
……おい、モノローグまで猫語になって来たぞ。いいのか?
「んむ……」
遠慮なく俺の領地に古泉が侵入してくる。
「うにゃ……」
お互いのざらざらした舌を絡める。
「ちょっと………痛い、です」
お前キス中によく発音できるよな。
痛いというのには俺も同意見だ。だからこの手を離して時が経つのを待とうぜ。
「それは無理な相談ですね」
くそ、やっぱり駄目か。この愛に餓えた獣め。
「僕が狼になるように望んだのはあなたのはずですが」
誓ってもいい。俺は望んでないからな。そう望んだのはハルヒだろう。
「涼宮さんがそう望んだのはあなたが僕のことを狼に喩えたからですよ」
それは……あれだ、お前が常に猛獣みたいな眼をしてるからだ。
ほら今のこの眼だよ。そろそろ腕を離せ。
古泉はそんな気などさらさら無いようで、何を考えたのか俺の両腕を片手で固定した。この野郎、なんでこんなに力があるんだ。
「それに、こちらはもう準備万端のようですが?」
緩めのパジャマズボンの上からでも勃ちあがっているのが解るそこに片手で軽く触れる。
「に……ゃぁ……」
古泉は鼻にかかった独特の笑い声を漏らし、
「そんなに欲しいんですか?」
ああ。止めて欲しいさ。
……そう言いたかったがやめておいた。こいつのことだ、本当に止める可能性がある。
「何か?」
何でもにゃい。
「やめ……」
っ、こら。どさくさに紛れて尻尾を触るにゃ。
「毛並みが気持ちいいですね」
お前、楽しんでるよな。ほら、狼の尻尾がわさわさ揺れてる。
「にゃっ……」
古泉は俺の尻尾をきゅっと握ったかと思うと優しく撫でるように手を動かす。この野郎、何を遊んでいるんだ。
「ふふ……可愛いです」
「うるさい……っ」
いいから早くしろ、この馬鹿。