歌モチーフ

□Lover's Faith/小野大輔
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 珍しく俺が夜中に起きると、目の前に苦しそうな顔をした古泉がいた。
 うめき声すらもあげず、ただ自分だけですべてを抱え込んでいるような顔。
……俺は、こんな顔をしている古泉を救うこともできない。
 それが悔しくて、涙が出てくる。
 古泉が目を覚ましても、俺は泣き止むことができなかった。
 理由を訊かれても、言うわけにはいかなかった。
 それは古泉を余計に苦しませるだけだと思っていたし、何より俺が嫌だ。
 浅はかなプライドを悟られたくない思いばかりが先だって、俺は黙って涙を流すしかない。
 背中をさすっている手がいっそ憎らしいくらいだ。
 それには確かに温もりが感じられるのに、古泉は俺のことを考えていないと解ってしまったから。
 その手が優しければ優しいほど、怖くなる。
 誰にでも向けられるものだと思ってしまう。
「どうしてそんなに泣いているのです?」
 しれっと言うその言葉に、何かが音をたてて切れた。
「さわ、るな……っ」
「え?」
「俺以外のこと、考えているだろ……」
 そんな手で、俺に触るな。
「違います……!」
「な、にが、違う、んだっ……!」
 言い訳なんて聞きたくない。
 耳を塞ぐ俺に、古泉はいくらか苛立った声で、
「聞いてください」
「いやだっ」
 これじゃまるで駄々っ子みたいじゃないか、と思っても止められない。
「ねえ、落ち着いてくださいよ」
「うるさいっ」
 頭を撫でようとした古泉の手を振り払うと、少し眉を寄せた顔が見えた。
 視界は歪んでいるはずなのに、こいつのことだけ見えるなんて俺も現金な奴だ。
「……悪い夢を、見たんです。あなたがいなくて……。寂しかった」
 俺が聞いていなくてもいい、ただ零れ落ちてしまったかのような気弱で唐突な言葉が妙にしっくりきた。
 全て勘違いなのだと解った。
 俺たちは、不器用なだけだったのだと。
「ごめ、んな……」
 そう言うと、古泉は少しびくつきながらも安心したように微笑んだ。
「やっと戻ってきてくれましたね」
 ひどく愛しげに抱き締められ、胸が暖まるのを感じる。
「ん、……好きだぞ」
 めったに言わないことを言ってやると、
「僕もです。もうお断りです、こんな思いは……」
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