歌モチーフ

□ダイヤモンドダスト/小野大輔
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 涙に濡れた二人の瞳は一片の迷いもなかった。
 小さくうなずき、キスをする。
 唇を離して見つめ合った目に宿っていた決意とは……


 さくさくと心地よい音がしていたのはいつまでだったか。
 気がつけば僕はそこにいて、僕の隣には彼がいた。
 いつの間にか僕たちに対する風当たりは強くなり、僕たちは最後の抗議をするためにここへ来たのだった。
 それなのに踏み出す足は重くなり、少し先を行った彼が振り返ってくれることに僕は幸福を感じた。
 必死で追いかけなくても、彼が僕だけを待って振り返ってくれる。
「寒くないか?」
 僕が寒いと言ったら彼はどう返してくれるのだろう。
「ん……。だいじょうぶです」
 彼に余計な心配はかけたくなくて、意地を張って微笑んでみても体が小刻みに震えているのは隠せなかった。
「無理すんな」
 その言葉を彼に言わせていいのか。
 彼に無理をさせてきたのは僕以外の誰でもないのに。
 またブルーな気分になりかけている僕を気遣ってくれているのか、彼が僕の肩を抱いた。
 少しばかり乱暴なそれに、どうしようもないぬくもりと愛しさを感じた。
「ちょっと、痛いです」
「でも、これくらいがちょうどいい。……だろ?」
 こくりとうなずき、言わなくても解ってくれるくすぐったさに頬が緩んだ。
 まるで僕たちがそうしていることが気に入らないかのようなタイミングで吹雪が吹いた。
 あまりにも強いそれに一瞬彼が肩を離しかけたものの、なんとか離されずにすんだ。
 その代わりと言っては難だが、僕は派手に尻餅をついた。それでも彼は肩を離さない。
 そうしていないと、誰かに取られるかと思っているように。
「だいじょうぶか!?」
 僕のせいで彼も転ばせてしまったけれど、どうやら彼は全く気にしていないらしい。
 それよりも僕のことを心配してくれている。
 それがあたたかくて、何より嬉しかった。
「だいじょうぶです」
「そうか、よかった。……行くか」
「はい」
 いくらか子供っぽさが残る口調で素直にうなずくと、彼が嬉しそうに笑った。
 僕たちが行こうとしている道は正しいものなのか。それさえ解らないまま僕たちは歩き続けた。
 僕も彼も、涼宮ハルヒという手錠で首をつながれている。
 でも、だからこそ……それで結ばれたふたりの輪はほどけない。
 冷たくなった手を繋ぎながら、この手は離すことができない、離されたくないと心に誓った。


 『機関』のお偉方が話していた通り、そこに館があった。
 こんなものを建てて何になるかなんて解らないが、ひとまず感謝だ。
「これか?」
「そうです」
 しっかりと繋いだ手は離さず、彼と一緒に館へ入った。
「けっこう……広いんだな」
 雪を吸って重くなったブーツを脱ぎ、エアコンのスイッチを入れた。
 さすがにすぐは暖まらないが、5分もしたら効いてくるだろう。
 今までの疲れを急に思い出したように体が重くなった。
 全身から力が抜けて、うまく立っていられない。
 くたくたと倒れ込む僕に最後に聞こえたのは彼の声だった。
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