短・中編

□誕生日
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 あれでもない、これでもないと選ぶこと約1時間。
 ついこの間、森さんから明日は古泉の誕生日だと聞かされ、今はそのプレゼントを選んでいる最中だ。
 なぜ森さんがわざわざそんなことを俺に伝えたかというと、俺と古泉の関係に気がついているからだろう。
 だろう、というのはまだ俺たちが森さんに直接言っていないからだが、古泉から聞くところによると俺たちが告白するのを待っているフシがある。
 もしかしたらこの機に言うべきなのかと考えつつ、何気なく手に取ったキーホルダーが妙に俺の好みに合致していた。
 ……いや、これは古泉へのプレゼントな訳だから、俺の好みで選んだって仕方ないのだが。
 キーホルダーをもとの位置に戻して、またうんうん唸っているとついに見かねたのか、店員が声をかけてきた。
「何をお探しですか?」
「あ、えー、友人の誕生日プレゼントを」
 少しどもったが、まあ許容範囲だろう。
 すると店員は何を思ったか、にまりとしか表現できないような笑みをこぼし、
「もしかして、カノジョさんですか?」
「え、ええ、そんな感じです」
 何故ばれた。
 正確には、彼女じゃなくて彼氏だが、そこまで当てられても困るので――恐らく店員も――彼女ということにしておく。すまん、古泉。
「でしたら、こちらのイヤリングなんかどうでしょう? 先ほどお手にとられていたキーホルダーともお揃いですので、カップルのお客様には大変人気になっております」
 プチマシンガントークの後、店員が薦めてくれたイヤリングを見ると、なるほど、確かにさっきのキーホルダーとお揃いになっている。
 しかし、イヤリングというのもなぁ……。
「他にも、こちらのネックレスやブレスレットもお揃いになっております」
 ああ、このネックレスならさりげないし、あいつにも似合うだろう。
「じゃあ、ネックレスとキーホルダーでお願いします」
「かしこまりました」
 店員はにこりと嫌味のない笑顔で応じてくれたが、それでも俺はあいつの笑顔の方が好きだなんて浮かれすぎなことを考え一人で赤面しつつ会計を済ませ、家についてからやっと根本的な問題を思い出した。
 いやはや、なぜ今まで気がつかなかったのだろう。
 それに気がついてしまった瞬間、古泉とお揃いなんて恥ずかしいことできん、と俺はベッドにのたうち回るのだった。
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