短・中編

□痛みの理由は
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「好きだ」
 顔を赤らめて、彼は確かにそう言った。
「気持ち悪がられるとは解っている。でも、それでも……」
 もう一度、僕をまじまじと見つめて、
「お前が、好きなんだ」
 ……どう答えたらいいのだろう。
 告白されることは初めてではない。が、男性からはもちろん初めてだ。
 正直困る。
 だって、僕は彼のことを苦手に思っているのだから。
 何も失うことなくここにいられることが羨ましく、同時に、妬ましい。
 僕がとっくに無くしてしまったものを彼は持っている。
 それは、おそらく僕にはもう二度と手に入らない、しかし、だからこそ僕が欲しくてたまらないもの。
「僕は、」
 ああもう、なぜこんなに緊張するんだ。
 今まで何回もしてきたように、ただ断るだけ。
「あなたの気持ちには応えられません」
 ごめんなさい、とあと一言付け足さなければ。
 それなのに、声は出てこなかった。
 なぜって、それは……彼がこんな泣きそうな、それでいて満足気な顔をしているからだ。
「うん、解ってた。ありがと――」
「で、も」
 って、僕は何を言っているのだろう。
「……いや、何でもありません」
 無駄な期待はさせない方がいい。
 そんなことは解っているはずなのに。
「……ひとつだけ、わがまま言ってもいいか……?」
「なんでしょう」
「これからも、俺とは変わらないように接してほしい。……その、友人として」
「ええ、もちろん」
 にこりと表情を繕いながら、何かが胸の中でわだかまっているのを感じた。





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