短・中編

□邪魔者?
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 いつもは土曜日はひとりで過ごすのだけれど、パパの家に向かったのは、なぜか人恋しくなったから。
 毎週日曜日に通っている道を歩きながら思うのは、二人に会いたい気持ちと、少しばかりの申し訳なさ。
 仲がいいのは痛いほど解っているから、邪魔はしたくないけれど、わたしは娘なのだから、少しのわがままは許されるはず。
 そう思えるくらい、二人はわたしのことも愛してくれているから。
 大きな扉の前で冷たい空気を吸ってから、インターホンを押す。
『はい。……あ、有希ですか?』
「ただいま」
 返事があったのを確認し、ドアを開けると、
「お帰りなさい、有希」
 と優しい笑みを浮かべたパパが迎えてくれた。
「おう? 有希か?」
 テレビを見ながら振り向いたママにも、
「ただいま」
 と駆け寄ると、わたしを抱きとめて、頭を撫でてくれた。
「寂しくなったのか?」
 どこか不安そうに訊く声に、わたしは小さく首を振る。
「会いたくなった。……ここは、落ち着く」
「よしよし」
 遠慮なくわたしの頭を撫でながら、ママはパパを呼んだようだった。
 ママの胸の中に居たわたしには見えるものなどほぼなかったけれど、後ろから近付いてくる足音と、この台詞を聞けば明らかだったから。
「はい? ……え、ちょっ」
 慌てたような声と共に、わたしの背中に重さと暖かさが伝わる。
「お前もたまには可愛がってやらないと可哀想だからな」
 そう言って、おそらくママはにやりとか、にたりとか、とにかくそういう類の意地悪な笑みを浮かべているのだろう。
「もう、そうやってあなたは……」
 ぶつぶつ言っていても、嬉しそう。
「にやにやすんな、ばか」
 こつん、という音が聞こえて、
「痛いですよ」
 なんていう声も、やっぱり嬉しそうで、本当にこの人たちと会えてよかったと思う。
「二人とも、大好き」
 ママの額にキスをして、体を捻り、パパにも同じようにする。
「俺もだ」
「僕もですよ」
 まるで競うように、そう言ってはキスを繰り返していく。
 そうしているうちにレンタルしていたらしいDVDが終わってしまい、文句を――わたしにではなくパパに――言っていたママだけれども、始終にこにこしていたので本気で言っていたのではないのだと思う。
 いつもの日曜日のように夕ご飯を食べ、お風呂に入り、ベッドに入って、寝ようとしているときだった。
 いつもならすぐに眠くなるのだけれど、なぜか今日は寝付けない。
 心を落ち着かせようとしてみても、どうにも目が冴えてしまう。
 ……仕方がない。
 二人を起こさないように注意して、わたしは隣の、自分の部屋で、本を読むことにした。
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